クリニックの後継者選びのポイントは?

後継者選びは、第三者継承の成否を決める重要な要素です。

ご子弟が同じ診療科の医者で、本人に承継の意思があれば、親子間承継は自然な流れなのでしょうが、親族以外の第三者の後継者も候補として検討することもできます。

とくに現在のクリニックにおいては、親族間承継と第三者承継はほぼ同じ割合とされています。

そこで、後継者を選ぶ際の指針となる資質の問題や後継者選びのポイントについてご紹介します。

◆第三者継承での後継者選びのポイントとは?

院長先生の多くは、クリニック経営で築いた財産をご子弟に承継することを望んでいると思われますが、「子どもが引き継ぐのが当たり前」などと安易に決めるのではなく、承継後の地域医療を持続させるために最良の選択をするようにしてください。

親族だけでなく、親族以外の後継者も候補として検討できます。

そこで、後継者を選ぶ際の指針となる資質の問題や、後継者の選択肢についてご説明します。

◇第三者継承の3つのパターン

第三者継承において、後継者の選択肢は以下の3つのパターンに大別できます。

それぞれのメリットとデメリットについて整理しておきましょう。

1)親族への第三者継承

親族といった場合、ご子弟だけでなく、配偶者、兄弟姉妹、叔父・叔母、いとこ、甥・姪なども含まれます。

第三者継承の後継者も、数十年前まではほとんどが親族でした。現在では全業種で減少傾向にあり、約4割弱が、配偶者、子供、親族への承継です(2020年4月24日、帝国データバンク調べ)。

<メリット>

親族への第三者継承は、昔から多く行われている方法ですから、従業員や取引先からの理解が得やすいというメリットがあります。

基本的に第三者承継のような営業権が発生する利害関係はありませんので、計画的に第三者継承を進めていくのにも適しています。

承継を機会に、個人名義の資産などの相続対策を戦略的行うことも比較的容易になります。

<デメリット>

不動産など承継財産が多く高額なほど、多額の納税資金や買取り資金が必要となり、その資金調達をどうするのかという問題があります。

また注意すべきは、承継する親族の経営者としての能力です。診療方針や患者さんを引き継ぐと同時に、ハード面、ソフト面でのトップマネジメントを身に着けていただく必要があります。

2)第三者への第三者継承(M&A

後継者不在に悩むクリニックにおいて、現在もっとも注目されているのが第三者承継(M&A)という手法です。

「身売り」というネガティブなイメージを抱かれる先生もいるでしょうが、医療機関に求められるのは事業の持続性・継続性です。それが地方であればあるほど、クリニックの閉院は地域医療の存続そのものを揺るがしかねない問題です。

そういう意味で、「引退」と「承継」を一体のものとして考え、早めに準備しておくことが大切です。

<メリット>

売り手側の先生にとっては、事業の売却、とくに安定的な収益の出ているクリニックであれば営業権の発生よるまとまった資金を得られることで、リタイア後の生活設計にゆとりが生まれます。

さらに大きいのが、院長都合の引退に従業員を巻き込むことなく、雇用の継続が可能になるということです。地域の患者さんに慣れたスタッフが残ることは、引き継がれる先生にとっても心強い存在といえます。

<デメリット>

売り手側の先生が希望する条件で事業を承継してくれる相手が必ずしも見つかるとは限りません。また安易に医師会や知り合いの医師に声をかけると、閉院の情報だけが独り歩きしてしまい、周囲を不安にさせる可能性があります。

そのため、マッチングサービスを利用したり、外部のコンサルタントに依頼したりして、情報漏洩を防ぎながら、広く働きかけを行う必要があります。

3)従業員への第三者継承(MBOなど)

勤務医としてクリニックに従事し、地域と患者さんに精通した人物が事業資産譲受し、後継者として独立する方法です。

患者増から勤務医を雇って二診体制を図る場合でも、将来の後継者候補という視点で採用される先生もおられます。

◆後継者に必要な3つの能力とは

クリニックを承継する後継者には、次の3つの能力が必要です。とくに第三者承継では、承継の条件交渉にばかり目が向いてしまいがちですが、自身の後継者として相応しい人物であるかどうかに冷静な判断が必要です。

①  実務能力

医療という専門性の高いサービスを提供することにおいては、後継候補者の職務経歴を見たり、面談をするだけでも技術や能力は判断できるはずです。病院で急性期医療に取り組んでこられた先生が、急に高齢者の慢性疾患に対応することに戸惑うこともあるかもしれませんが、患者さんの引継ぎ期間を設けることで多くは解消されると思われます。

②  経営能力

医療機関の月間収入は、「診療単価×患者数×営業日数」であり、保険医療を提供している限りにおいては、診療単価も決められていますので非常にシンプルです。

そこから検査料や医療材料などの診療原価と販売管理費を引いたのが月間の利益となります。

ただし、発生主義のP/L(損益計算書)と支払基金からの現金が動くC/F(キャッシュフロー)に時間差が生じます。

患者さんが窓口負担をクレジットカードで決済した場合も同様です。これを経営者が正しく理解し先行きを見通せなければ、肝心の資金繰りが成り立ちません。

良質な医療を提供しつつ、常に健全な経営状態を保つことが経営者に求められる能力といえます。

③  リーダーシップ

看護師や受付事務が他の業務もサポートしながら最小限の人数で運営するのが、クリニックのチーム医療といえます。

また、多くの場合、クリニックの従事者はパート採用の主婦ですから、それぞれに優先すべき家庭の事情を持たれています。その人間関係が濃密になるほど、トラブルが生じやすいのもクリニックの特徴です。

よって、院長は診療にのみ集中するのではなく、すべてのスタッフの行動や考えに関心をもち、チームを良い方向に導かなければなりません。

これは外部の協力会社も同様です。

病院勤務医ではあまり経験のなかったと思われる人的マネジメント―プレーイングマネジャーとしての強いリーダーシップが問われます。

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