閉院前に知っておきたいコト~医療機器編~(前編)
クリニックを閉院するときに苦慮しがちな問題のひとつが「医療機器の処分」です。
医療機器には、運び出すことさえ難しい大型のものや、感染リスクに配慮しなければならないものも多いため、家電や家具のように簡単に処分することができません。
今回は、「閉院前に知っておきたいコト~医療機器編~(前編)」と題しまして、医療機器の処分が難しいと言われる理由やその背景について詳しく解説してまいります。
◆医療機器の処分が難しい理由って?
クリニックには、CTやMRI、レントゲンなどの検査機器、心電計や血圧計など小型の医療機器、滅菌機、手術台など様々な医療機器があります。
これらの医療機器は、例え小さなものでも処分を行う際には細心の注意が必要です。
以下、医療機器の処分が一筋縄ではいかない5つの理由について解説致します。
理由①:家庭ごみや粗大ごみで廃棄できないから
医療機器は「産業廃棄物」に該当するため、家庭ごみや粗大ごみと一緒に廃棄することはできません。
さまざまな病気やケガなどで来院された患者様に使用した医療機器には「感染リスク」が伴うことに加え、医療機器の中には有害物質や化学物質を含むものも多く、環境への配慮という観点からも慎重に取り扱う必要があるためです。
血液や病原微生物などが付着している可能性のある「感染性医療機器」は、しっかりと滅菌・消毒したうえで、特別管理産業廃棄物の取扱許可業者に処理委託をしなければなりません。
それ以外の「非感染性医療機器」については、一般の産業廃棄物取扱許可業者への委託が可能ですが、水銀・鉛・カドミウムなどの廃棄物処理法指定有害物質や特定化学物質を含んでいる場合は、特定管理産業廃棄物として扱われます。
理由②:デリケートな電子機器だから
医療機器は非常に精密でデリケートな電子機器です。
小型のものであればまだ良いのですが、大型のものは運ぶだけでも大変ですし、構造が複雑でケーブル類も入り組んでいるため、安全に撤去するにはいくつもの工程が必要になります。
たとえばX線一般撮影装置の場合、以下の工程を踏む必要があります。
1.搬出通路の養生・安全確認
2.X線高電圧装置の解体
3.管球部分の解体
4.ブッキーテーブルの解体
5.X線支柱の解体
6.搬出・養生部分などの片付け
これらの工程を行うには、医療機器の構造を熟知した人が複数人がかりで作業しなければなりません。
さらに、大型の医療機器を処分する場合、クリニックの階層やエレベーターの使用可否によっても作業の手間や難易度が変わるため、条件次第では想定していた以上の費用がかかることもあります。
理由③:法律やマニュアルで厳正に管理されているから
医療機器の処分は、法律やマニュアルに沿った適切な方法をとらなければなりません。
法律やマニュアルの遵守を怠った場合は、罰せられる可能性もあります。
感染性医療機器は「特別管理産業廃棄物収集運搬業」、非感染性医療機器についても「産業廃棄物収集運搬業」の許可を持っている者でなければ、処分はおろか運び出すだけでも法令違反になってしまうのです。
医療機器に当てはまる「産業廃棄物」や「特別管理産業廃棄物」の処理に関する決まりは「廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)」の第三章に明示されているほか、細かい手順については環境省が作成した「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル(環境省)」などを遵守して進める必要があります。
理由④:「マニフェスト」の発行が必要だから
医療機器を廃棄する際には、廃棄物の移動状況を把握・管理するために必要なマニフェストと呼ばれる「産業廃棄物管理票」の発行を行わなくてはなりません。
業者に処分を依頼する場合、本来は医療機器の所有権自体を業者に移転してから廃棄処理を行うのが正しい方法なのですが、手続きが非常に煩雑です。
そのため、慣習的に業者がマニフェストを発行し、医療機関は写しを保管するケースが大部分を占めています。
産業廃棄物運搬処理許可業者に対してマニフェストを発行していない場合、または産業廃棄物運搬許可業者からマニフェストの写しをもらっていない場合、マニフェストを5年間保管していない場合は、法令違反で罰則の対象になりますので注意しましょう。
最近では、より適正かつ確実に管理するために、「電子マニフェスト」の導入も増えているようです。
理由⑤:リース契約では中途解約の違約金が発生するから
「うちで使っている医療機器はリースだから安心」と思われている先生も多いのではないでしょうか。
しかし、リースにはリースならではの注意点があります。
医療機器のリース契約は、原則として中途解約ができないものが多くあります。
中途解約ができない契約になっている場合、満了の前に解約する場合は残りのリース料に相当する解約料を支払わなければならず、機器の数によってはかなりの金額に膨れ上がることもあります。
各医療機器の契約期間の足並みが揃っていれば、満了のタイミングを待って閉院・一括処分をするという選択肢もありますが、そう簡単にはいかないのが実情です。
複数の医療機器をリースしていて、解約のコストを抑えたい場合は、最も損失が少ないタイミングを見極める必要があるのです。
◆引退に際してのお悩み事など、お気軽にご相談下さい
いかがでしたでしょうか。
「閉院前に知っておきたい医療機器の処分方法(前編)」では、医療機器の処分が難しいと言われる理由や背景について解説してまいりました。
次回の後編では、医療機器の具体的な処分方法や処分にかかる費用について詳しく見てまいります。
弊社では、クリニック譲渡・第三者継承をサポートしており、将来の引退時の選択肢として閉院以外の道も用意しておくことで、本記事でご紹介したような閉院に関わる様々なご負担を軽減できる可能性があります。
また、既に閉院を決めておられる場合のサポートも承ります。
クリニック継承に少しでもご関心がございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。