クリニック第三者継承 成約事例インタビュー『札幌メンタルクリニック』中編
転科・起業を経て精神科領域へ 尽きぬ探究心が辿り着いた開業という選択肢
長きにわたり地域の精神科医療を支えてこられえた札幌メンタルクリニックは、若き医師・安藤晴光新院長によって引き継がれた。今回は安藤新院長に、開業に至るまでのご経歴やご専門、開業時の引き継ぎで心がけている事などを伺った。
外科医から内科医、健康食品会社の起業!? を経て精神科医へ
−−−では、ここから新院長の安藤晴光先生からも話をうかがいます。プロフィールを拝見して驚いたのですが、医師としてのスタートは消化器外科だったのですね。やはり、がん治療に取り組みたいという思いだったのでしょうか。
(安藤先生)若かりし頃のことですね。現在の消化器外科的治療の第一となるラパコレの手技を学び、果敢に手術に挑んできました。
−−−その後は和歌山に移られて、総合内科医に転じられたということですね。
とはいっても、小さな病院だったので、内科プラス何でも屋という感じです。
−−−精神科医療も和歌山で経験されたのですか。
和歌山の病院には精神科がなかったのですが、内科に心療内科の機能を備えたお悩み相談的な部門がありました。それでも内科の延長のようなもので、正式な精神科医療は閉鎖病棟もある苫小牧市道央佐藤病院での勤務で経験しました。
−−−その間の2017年にカナダで健康食品の会社を起業されたのですね。
そうですね。元々栄養医学には興味がありました。カナダの会社では味噌などをベースにした発酵食品を開発・販売していました。カナダ人は一般的に健康志向が強く、生野菜も結構多く食べられます。そこで、野菜につけて食べられる美味しくてヘルシーなディップを開発しようと考えたわけです。
−−−先生の専門領域であるオーソモレキュラー栄養医学の原点もそこにありそうですが、分子を矯正して整える、投薬中心の枠組みから栄養を医療の基盤とする考え方について少し分かりやすく説明していただけますか。
栄養学でいうと、エネルギー産生栄養素の一つであるタンパク質が体をつくる材料なのですが、タンパク質は20種類以上のアミノ酸が立体的に集まった高分子化合物です。このアミノ酸がそれぞれの機能を果たしているわけですが、半数近くは食品から摂取しなければ合成できない必須アミノ酸と呼ばれるものです。分子レベルというのはそのことで、栄養医学というのは決まった手法というより、考え方を示すものです。実際に行っているのは毎日の食事療法で、その軸が分子栄養学に則っているというわけです。ですから、サポート的に患者さんの体調不良を支えるという意味では、いろいろな薬も併用した方がいいという方針でやっています。
−−−オーソモレキュラー医学と精神疾患。この関連性もあるということですね。
オーソモレキュラーの効果は全身に効果があると思われますが、栄養障害は一番大きな臓器である脳にくるのではないかと思われます。精神科医療の薬物療法で過剰状態の正常化を促すセロトニンやドーパミンもタンパク質です。そういう意味では効果が出やすいのではないかと思っています。
−−−説明を受けた患者さんの納得度も高そうですね。
そうですね。基本的に私たちの体は摂取した食べ物でできていて、その取捨選択でいまよりも体調が良くなることは、日本人の皆が知っていることです。昔からいわれるところの医食同源ですね。診療は分子栄養学の理論を元にやっているわけですが、難しい説明はしません。それでも効果を実感しやすいと思いますので、特別なものではなく通常の診療の流れのなかで行っています。
−−−カナダでの起業もそうですが、独立志向のようなものは、元々あったのでしょうか。
最初に入った外科医療は当然ながら病院のチーム医療でしか成り立ちません。それ自体はとても良い経験でしたが、内科に転科してさまざまな患者さんと向き合う経験を重ね、その意識の深さを知ると、私自身に探求心のようなものが芽生えました。人間の心って思うよりはるかに奥深いのだと自覚したときに、いろいろとやってみたくなるものですね。新しいことを始めようとしたときに、大きな病院組織にいて上司の許可を得ることよりも、自分の責任で意思決定してみようと思いました。その方法論としての開業という選択肢はもっていました。
−−−精神科医療は診療ガイドラインが定められているものの、事実上、診断を確定する数値化されたエビデンスがありません。もちろん病院外来でも同じことなのですが、地域医療の担い手としての精神科クリニックは患者さんにとってどういう位置づけであるべきかとお考えですか。
精神疾患かどうかの診断以前に、患者さんはいろいろな症状や不安を抱えて来院されるのが現状です。
(岡田先生)クリニックが増えて精神科医療への受診のハードルが下がりました。昔は単科病院しか受け皿がありませんでした。精神科医で作家でもあった北杜夫(斎藤宗吉)の時代がまさにそうで、私もそうした時代に精神科医になりました。いま職場などでのパワハラやセクハラに端を発する適応障害が相当増えています。身近なクリニックの精神科医から診断書をもらって、休職や退職のエビデンスにするわけですね。昔はあり得なかったことです。メンタルクリニックが経営的にやっていけることになった背景がそこにあります。
−−−潜在的なストレスが顕在化し、その受け皿がクリニックだったということでしょうか。
どうなんでしょうかね。私が岡島前院長の跡を継いだときが丁度過渡期だったと思いますが、それまでのクリニックでの精神科医療は、どの先生も大抵内科や神経科をやりながら併科で診てきたのです。そこから、精神科を単科で標榜するようになり、さらに「心療内科」へとつながりました。サイコソマティック・メディスンにも通じる心身一如とも共通点がありますが、世界でも日本にしかない「心療内科」という言葉が、受診のハードルを急に下げたように思います。
−−−安藤先生は岡田先生と面談され、どのような印象を受けましたか。
(安藤先生)80歳を過ぎていると聞いて、あまりにもお元気でびっくりしました。若々しくて、診察室での姿は60代を感じさせます。
(岡田先生)全然元気じゃない、カラ元気です(笑)。言い忘れましたが私は64歳のときに胃がんにかかり、胃を全摘しているんです。その後も腸閉塞を6回もやっていて、もう大丈夫だろうと思ったら今度は背中にきた放散痛が痛むのです。耳も遠くなり、そうなると逆にカラ元気が出ますから安藤先生にはそのように感じるんでしょうね。
−−−今年の4月から診察に加わってみて、岡田先生から受けた学びのようなものはありましたか。
(安藤先生)一緒にいて学ぶところだらけで、すごく勉強になっています。
(岡田先生)精神科医療というのは私の医師人生の一部に過ぎません。大学でNeurologyをやってきて、私自身は神経精神科医だと思っています。それで、いま40年ぶりに脳波検査をやっています。てんかん医療では特徴的な発作波で診断しますが、精神科ではあまりやりません。でも指紋と同様に、脳波も一人ひとりに固有の波形があります。そこに興味と可能性があります。
−−−精神科の場合、他科に比べて患者さんと主治医の信頼関係が強く結ばれていると思われますが、大ベテランの岡田先生から若い安藤先生に院長が代わり、既存患者さんに戸惑いのようなものはありませんか。
(安藤先生)最初は岡田先生がこれからどうなってしまうのかと不安の声が多く聞かれました。ただ岡田先生が名誉院長として平日週2日と土曜日も月2回入っていただけることになり、患者さんにも説明がしやすくなりましたし、患者さんも動揺することなく運営できています。そういう意味で、一番いいスタイルで丁寧な承継ができていると感じています。
−−−安藤先生としては、今後岡田先生の診療スタイルのどこを踏襲し、どの部分に安藤先生らしさを発揮しようとお考えですか。
大事なのは個々患者さんにベストを尽くすことですので、あえて線引きすることなく、肌感覚で良いと感じるところはそのまま岡田先生を真似たいと思いますし、私のメソッドが活かせるところは最大限に発揮したいと考えています。
(文責 日本医業総研 広報室)
◆Clinic Data
医療法人社団 ほほえみ会
札幌メンタルクリニック
・診療科
精神科 神経科 心療内科
・所在地
北海道札幌市東区北12条東7丁目1 ワコービル5F
・クリニックホームページ
https://www.sapporo-mental.com/
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