知っておきたい相続のはなし
■いつかくる相続のタイミングに備えて
クリニックの開業では、先生はまず経営を軌道に乗せることに全力を投じますから、リスクマネジメントには目を向けても、将来ご自身の身内に発生しうる相続までは考えが及ばないのが普通です。
個人経営と医療法人とでは、やや考えの異なる面もありますが、後継者が現れないかぎりクリニックは一代限りで廃止ということになります。
しかし、何の事前対策もないままに、先生に万が一のことが生じると、経営者を失ったクリニックの資産(先生の個人資産)は相続の対象となり、残されたご家族は途端にどう対応したらよいものかと悩む事態に陥ります。
一般的に設備投資が多いことのほか、非営利性の観点から配当行為が禁止されている医療法人では、内部留保された剰余資金、すなわち相続対象となる残余財産(出資持分)も膨れ上がる傾向があります(2007年3月以前に設立された経過措置型医療法人)。
クリニック専用の不動産を先生が個人所有する場合も同様で、相続税には申告と納税の期限が決められているだけに、売却か賃貸か、既存建物をどうするかなどの検討も必要になってきますので、相続人は大変な手間を要することになります。
クリニックが本来守るべき原則は地域の患者です。
高い公器性をもつ施設だけに、やむを得ないとはいえ、廃止という院長個人の事情を地域に巻き込むことは地域の損失になります。 早めに後継者を定め、クリニックの持続性・永続性を高めることは、経営者の責務ともいえます。
■クリニックの財産の承継問題
後継者が見つかり、生前に院長を交代することができる場合には、クリニックの財産をどうするかが問題となります。
その際のパターンは大きく以下の3つに分かれます。
①所有する不動産で開業している場合、後継者と賃貸借契約を交わす
賃貸借契約であるため、不動産の所有権は手元に残り継続的な賃貸料が入ります。
物件は相続されるので、賃貸契約も相続人に引き継がれます。
自宅併用クリニックの場合には、クリニック部分だけ賃貸すればよいので、自宅がなくなる心配もありません。
②生前に売却する
この場合の注意点は、院長を交代した後のご自身と家族の生活資金の確保です。
クリニック譲渡による一時所得だけでは、後の生活資金が確保できない場合も考えられますので、非常勤での勤務など無理のない範囲での継続性のある収入の確保にも検討が必要です。
なお、不動産の譲渡は譲渡所得となり、税率が一定ですが、医療機器などの譲渡は「総合課税の譲渡」になり累進課税となります。医療機器等を減価償却残高以上の価額で売買し利益を得る際には、思いのほか税率が高い場合もありますので顧問税理士などへの事前の相談をお勧めします。
③生前は賃貸借契約を締結し、死亡後に売却する
賃貸不動産の相続は、自用の建物に比べ相続税評価額が低くなります。
また、生前は賃貸の状態を保ち、死亡後にクリニックの財産を相続した相続人が売却すれば、その相続人は相続税額の取得費加算の特例※を使うことができ、土地建物の売却に係る所得税の軽減が期待できます。
※譲渡所得に係る相続税額の取得費加算の特例とは、相続により取得した土地、建物、株式などを、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合に、自らが納めた相続税のうちその譲渡した財産相当額(上記算式によって計算された金額)を譲渡資産の「取得費」に加算することができるという特例です。
譲渡所得の計算は、売却代金 – (「取得費」+譲渡費用)=譲渡所得で計算されるため、
この特例を用いると譲渡所得を小さくし、その分所得税、住民税の納税負担も小さくすることができます。
■個人の営業権の譲渡
前段でも述べたとおり、個人でも営業権の譲渡は可能です。
ただし、所得税の考え方では、個人クリニックの営業権の譲渡は、一般には譲渡所得ではなく事業所得とみなします。
医師や弁護士などは、一身専属的な職業 (その人固有の能力に左右される)ということから、「その能力を売ることはできない」と考えられ、
単に営業権のみを譲渡した場合は、クリニックの事業活動の一環として売上をあげた、とみなされる為です。
出資持分の譲渡所得は、売買価格の多寡によらず、税率が一定(所得税15%、住民税5%)ですが、事業所得の場合は「総合課税」にあたるため、最高で所得税55%、住民税10%になります。
また、不動産の売買は「譲渡所得」になるため、所有期間が5年以上であれば、持分と同じ税率が適応されます。
クリニックの財産を譲渡する場合には、場所や建物、機器が営業権の価値を作り上げたともいえますので、売却価額に営業権も織り込むことができる可能性がありますが、 賃貸借の場合など、譲渡が発生しない場合には営業権譲渡にかかる税金にも注意してください。
■メディカルトリビューンの継承支援は、税務面の観点も含めたご支援が可能です
クリニックは法人・個人問わず、公益性の高い事業の為、後継者を見つけ地域医療を存続させるという第三者継承は社会的な意義も大きいです。
また、今回のメインテーマである相続税に関しても、専門知識なしでは正しい判断が難しい分野ですので、税理士等専門家へのご相談をおすすめいたします。
メディカルトリビューンが提携する日本医業総研は、グループに医業に特化した税理士法人を有するため、継承のご相談や後継者探しだけではなく、税務・会計面でのご支援も可能です。