開業という選択~開業医の魅力と近年の開業傾向~
開業医を目指す医師からその動機をうかがうと、「理想の医療の実現」を掲げる方が大半を占める一方で、同時に「病院での過重労働に疲弊」や「大組織での精神的なストレス」などを訴える方も少なくありません。
開業を迎える先生の平均年齢は41~42歳とされていますから、病院組織のなかでは中核的なポストに就き、現場の第一線で活躍されている日々の姿が思い浮かびます。
医師としての円熟期に、「やりがい」と「疲弊」は不離一体の関係性にありそうですが、気力体力ともに充実した年齢で、経営者として「理想の医療の実現」を追い求めることは、外来好きの先生にとっては新たなステージへのキャリアアップなのかもしれません。
開業では週休2日相当の休診を設けていても、実際の休暇日は週1日以下という先生が少なくありません。それは、クリニックの休診日を利用して地域医療活動に参加したり、開業立ち上がりの不安定な時期に他院で非常勤勤務を行っているなどの場合がみられるからです。
そうした先生方からは、「勤務医時代より多忙で長時間労働」という声も聞かれますが、その表情は理想の医療が実践できている充実感にあふれています。
少なくとも、勤務医時代の精神的ストレスからは解放されたご様子がうかがわれます。
開業医のおもしろさとは?
病院の外来とクリニックとの大きな違いは、医師と患者さんとの距離感です。
患者さんの心理としては、病院にかかるのはハードルが高く、医師にとっても徹底された分業組織のなかで、ひたすら〝数をこなす〟ことが要求されますので、患者さんの訴えにじっくりと傾聴することが現実的には困難です。
一方、開業医に求められる機能は「かかりつけ医」です。
英国のGPほどには社会環境が整っていませんが、プライマリケアを提供するうえで患者の生活背景にまで目を配り、全人的な評価の下にアウトカムを共有し、治療を選択することになります。
そのプロセスが丁寧であるほど先生と患者さん、患者さんのご家族との信頼関係が深まり、その積み上げが、地域からの信頼にまで広がっていきます。人々の住みよい環境に、身近で良質な医療を提供するクリニックは不可欠です。
開業医とは、医療を通じて地域のライフラインを創造しているわけです。
2025年までの整備を目指す地域包括ケアシステムにおいても、クリニックの積極的な関与と連携なくして進めることは困難です。患者さんとの近い距離とは、地域を支える距離感でもあるのです。
最近のクリニック開業の傾向
病院勤務で培った高い専門性をクリニックで実現することで競合との差別化を図ろうとするのがここ数年の傾向でした。実際、いまでも病院と同等の検査機器をそろえて診断の精度を高め、適切な医療を提供しているクリニックが多く開設されています。
一方でクリニックの利用者の多くは、慢性疾患や複数の合併症を患う高齢者で、この傾向は今後も続いていきます。
医療費適正化政策が進むなか、療養病床が次々と廃止・再編され、患者さんのケアは入院から通院、そして在宅・施設へと移行してきました。
そこで自ずと需要が高まるのは「在宅(往診)診療」です。2020年に始まった新型コロナウイルス感染症拡大による収入の影響を受けなかったのも在宅診療で、在宅専門クリニックのほか、外来対応と時間を明確に分けて在宅対応を実施するクリニックの新設が増えています。
病院、訪問看護事業所、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカー、ヘルパーなど、在宅療養患者さんを支える地域のプロたちとの密な交流・連携も、病院勤務やクリニック外来にはない地域に密着した医療を実感することができます。