跡継ぎのいない開業医が検討したい“第三者継承”って?

昨今クリニック院長の高齢化や後継者不足が大きな課題となっており、それらの背景から、クリニックの閉院を余儀なくされる開業医が増えております。

クリニックの閉院には、スタッフの雇用や地域医療が維持できなくなる、各種手続きや費用の面で院長自身にも大変な負担がかかるなど、さまざまな不都合やデメリットが伴います。

今回は、「跡継ぎのいない開業医が検討したい“第三者継承”って?」と題しまして、開業医の跡継ぎ問題にある社会的背景や、跡継ぎがいない場合の選択肢として昨今注目されている「第三者継承」について詳しく解説していきます。

◆後継者不足は深刻な社会問題

後継者不足は今、日本の社会全体が抱える課題になっています。
中小企業・小規模事業者の後継者問題について詳しい調査が行われた2020年版の「中小企業白書」によると、経営者の平均年齢は60歳を超え、70歳以上の経営者が占める割合が年々上昇。
さらに経営者が60歳代の企業のうち約5割、経営者が70代の企業のうち約4割が、後継者不在であるという調査結果が出ていました。

医療業界でも一般企業と同様、後継者問題が浮き彫りになっており、開業医の8割以上が「跡継ぎがいない」状態であると言われています。
跡継ぎがいないために高齢でも無理をして現役継続を余儀なくされていたり、断腸の思いで閉院を決意されるケースが多くなっています。

◆「跡継ぎがいない」と悩む開業医が多い理由

開業医の後継者不足問題には、少子高齢化や労働人口の減少に加え、医療業界ならではの事情や、世の中の価値観が変化したことなども関係しています。
ここでは、跡継ぎの不在に悩まされる開業医が増えている理由を、さらに深掘りして見てまいりましょう。

理由その①:開業医に子がいない
これまでの日本における医業は、親子間で継承・承継される世襲が多く、特に個人経営のクリニックは典型的なファミリービジネスの様相を呈していました。
しかし近年は少子化が進み、跡継ぎとなる実子がいない開業医も珍しくありません。

何十年か前であれば、実子のいない開業医は親戚に医院を継承したり、養子を迎えて跡を継がせたりしていました。
しかし現在では、少子化によって遠縁まで辿っても跡継ぎになりそうな年齢の親戚が見つからないケースも多く、養子を迎えてまでクリニックを残そうとは思わないという開業医がほとんどでしょう。

第二次ベビーブームで生まれた団塊ジュニア世代(1971年~1974年生)が引退を検討する時期が来ると、ますます開業医の跡継ぎ問題は深刻になると考えられます。

理由その②:開業医の子や親族に医師免許を持つ者がいない
開業医に子や親族がいたとしても、当然ながら医師免許を持っていなければクリニックの跡を継ぐことはできません。
承継する者に医師免許が必須であることは、クリニックの継承が難航する大きな要因のひとつだと言えます。

医師免許を取得するためには、医科大学や大学の医学部で6年間学び、国家試験に合格しなければなりません。
また、医師免許を取得してからも2年間の臨床研修が課せられます。
一人前の医師となり跡を継ぐためには、この過程をすべてクリアしなければならないのですが、医科大学や医学部の競争率は非常に高く、簡単に超えられるハードルではありません。

子が小さな頃から勉強を促すことはできても、「家業を継ぐ」ことが当たり前ではなくなった現代の価値観では、なかなか難しい側面もありそうです。

理由その③:医師免許を持つ子や親族がいても継ぎたがらない
医師免許を持っていたとしても、子や親族がクリニックの跡を継ぐことを拒否するケースも多いようです。 個人経営のクリニックの院長は、医師としての役割と経営者としての役割の両方を担うこととなります。
つまり、患者を診るだけではなく、経営・運営面でも采配を振るっていかなければならないため、大変な苦労があるのです。
その姿を間近で見てきた子や親族が「継ぎたくない」「開業医になりたくない」と考えてしまうのは、無理もないことかもしれません。

もちろん跡を継がない理由には、「開業医は大変だから」「リスクが大きいから」といった消極的なものだけではなく、勤務医として働くことに大きなやり甲斐を見出しているパターンもあります。
たとえば「大きな病院で自身の専門分野を追究したい」「救急医療や急性期医療の最前線にいたい」などの目標があると、家業を継ぐことには魅力を感じにくい一因になっている可能性があります。

◆跡継ぎがいない開業医の選択肢は2つ

では、跡継ぎがいない開業医にはどのような選択肢があるのでしょうか。

選択肢①:閉院する
跡継ぎ不在のために閉院するクリニックは年々増えています。
後継者問題で悩んだり家族を煩わせたりするよりは、自分が選んだタイミングで引退するほうが良いと考える開業医が多いようです。
ただ、長い年月にわたって心血を注ぎ運営してきたクリニックを閉院することは、開業医にとって辛い選択であるとともに、以下のようなハードルが考えられます。

まず、閉院にはコストがかかります。
建物の取り壊しや賃貸物件の原状回復にかかる費用、医療機器・医療用品・薬剤などの処分費用、登記や法手続きに関わる費用、スタッフの退職金等のほか、借入金があれば残債も清算しなければなりません。
クリニックの廃業コストは、条件次第では1,000万円以上に膨れ上がることも珍しくありません。

また、身近な“かかりつけ医”を失う患者や、勤務先を失うスタッフにも多大な影響があります。
特に医療機関が少ない地域では、地域医療や雇用の維持に大きく影響する可能性があり、閉院に踏み切れず悩まれる院長先生も多いのではないでしょうか。

選択肢②:第三者に医院継承する
第三者への医院継承とは、親族以外の人にクリニックの経営権を売却・譲渡することです。
医院が継続することは患者さんやスタッフの雇用継続につながり、さらには前述した閉院コスト削減のほか、一定の評価に基づく譲渡対価(=営業権・のれん代)を受け取れるといった様々なメリットがあります。

一方、「どのように後継者候補を探せばよいのか?」「譲渡額はどうやって決めればよいのか?」「継承する為の手続きはどう進めるのか?」など、円滑に進めるためには医療・経営以外の面での様々な知見が必要となり、院長先生個人で進めることはハードルが高い方法でもあります。

◆クリニックの第三者継承、その利点とは

第三者継承が注目されているもっとも大きな理由は、クリニックを閉院する場合と比べて、さまざまなメリットがあるためです。

以下、第三者継承のメリットを大きく2つのポイントに分けて解説します。

ポイント①:閉院のコストがかからず、譲渡金も受け取れる
前回の記事でお伝えしたように、クリニックの閉院・廃業には、まとまったコストがかかります。
しかし、第三者に医院継承することで、建物や医療機器などもまとめて引き継ぐことが可能となります。
院内のクリーニングや医療機器のメンテナンス等にかかる費用の一部を譲渡側が負担する場合もありますが、すべて処分するよりも大幅にコストを削減できるでしょう。

また、第三者への医院継承は売買によって行われるので、譲渡対価を受け取ることができます
譲渡対価は、土地建物や医療機器など譲渡の対象になる資産の時価評価額に、営業権(のれん代)を加えて算出されることが一般的です。
仲介手数料や売買する不動産の名義変更、法人の役員変更・定款変更等の登記に関わる費用は発生しますが、無償譲渡でもない限り赤字に転ずることは考えにくいと言えます。

ポイント②:スタッフの雇用や地域医療を維持できる
クリニックの継承は、その地域の患者様を守ることにもつながります。
院長・経営者が代わることで多少の“患者離れ”が生じる可能性はありますが、クリニック自体がなくなれば、すべての患者様が“かかりつけ医”を失うことになってしまいます。
特に高齢者やお体が不自由な方にとっては、相当なダメージがあることでしょう。
患者様のご負担の軽減や地域医療の維持という観点から見ても、第三者継承のメリットは大きいのです。

また、継承時の取り決めによっては、スタッフの雇用を継続してもらうことも可能です。
原則として、個人経営のクリニックから個人医師への第三者継承で引き継ぐのは事業に属する有形資産(建物や医療機器など)のみで、雇用の引き継ぎはマストではありません。
しかし実際のところ、地域医療の維持と円滑な引き継ぎ・運営のために、スタッフが承継後のクリニックと新たに雇用契約を結ぶケースは多いようです。

◆第三者継承における注意点

前述の通り、第三者への医院継承には多くのメリットがありますが、継承に際しては注意しておきたいポイントもあります。

まずは金銭面です。
譲渡対価の交渉はもちろん、土地建物の原状回復にかかる費用や医療機器のメンテナンス費用を、売り手と買い手のどちらがどれだけ負担するのかなど、細かな責任分担もしっかり摺り合わせておかなければ、後々のトラブルに発展するリスクがあります。

その他にも、承継後のクリニックでもスタッフの雇用を継続しもらえるのか、患者様のカルテは引き継ぐのかなど、事前に確認すべきことが多々あります。

さらに、医院理念や診療方針・経営方針に関しては、まるごと継承しなければならないわけではないものの、“患者離れ”を防ぎ地域医療を維持していくためには、踏襲すべきものはそのまま残す丁寧な引き継ぎが必要不可欠だと言えるでしょう。

◆第三者継承は専門家に相談した方がよい

いかがでしたでしょうか。
多くの院長先生が引退に際してご懸念される、「患者」や「従業員・スタッフ」の問題、更には閉院にかかる費用や手間の問題を解決できる、と聞くと“閉院するくらいなら第三者継承も検討してみたい”と考えられる先生もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかしながら、
「候補者をどのように探すのか?」
「営業権はどのくらいの額がよいのか」
「お金の話をするのは気が引ける」など、円滑に進めていくには先生個人では難易度が高い方法であることもまた事実です。

数年前とは異なり、最近ではクリニックの第三者継承を仲介する弊社のような業者も増加し、無料相談ができる会社も増えております。

引退を検討される場合には、こうした専門家のアドバイスも受けながら進めていくのが良いといえるでしょう。