開業をしたい医師のマネープランとは?

いつかは開業して自分のクリニックを持ちたい、一度はこのように考えたことのある先生がほとんどではないでしょうか?
クリニックの開業はあくまでスタートであり、その後も順調に運営していくには、具体的な資金計画を立て計画的に動いていくことが必要です。

今回は勤務医を経て開業し、最終的に子供にクリニックを引き継いでゆく、といったモデルケースを例に、年代ごとに対策・計画しておきたいマネープランニングを紹介していきます。

■30歳代(結婚)

30代はまだ勤務医として働いている医師が多数です。
この時期には独立開業へ向けた資金準備や子どもの教育資金、疾病や人災への対策、住宅ローンの早期返済など、以下のマネープランを検討しましょう。

独立開業のための資金準備:
将来の独立開業に向けて資金を積み立てる必要があります。診療所の建設や設備投資には多額の資金が必要ですので、それに備えて計画的に資金を準備しましょう。

子どもの教育資金の準備:
子どもの将来の教育費に備えるため、早い段階から学費の積み立てを始めましょう。教育資金は長期にわたるため、時間を活かした運用も視野に入れることが重要です。運用型の金融商品や生命保険の活用、贈与による非課税の特例なども検討しましょう。

疾病や人災への対策:
家族への責任を考えると、疾病や人災への対策も重要です。地震保険への加入や災害時に必要な流動性資金の確保、住宅の補強などを検討しましょう。また、家族の疾病対策のための保険加入も検討し、リスクを最小限に抑えましょう。

住宅ローンの早期返済:
長期にわたる住宅ローンの返済は金利負担が大きくなります。開業資金の借入も考える中で、できるだけ早期に繰上げ返済を行い、金利負担を軽減しましょう。健全なマネープランのために、ローンの返済計画を立てておくことが重要です。

■40歳代(独立開業)

40代ではいよいよ開業医として独立を果たします。 この時期のマネープランでもっとも重要なテーマは開業資金の工面といえるでしょう。

開業資金の借入れ:
独立開業当初は、開業資金の借入が大きな負担となります。収入がまだ安定していないため、キャッシュフローの調整に苦労することがあります。適切な借入方法や返済計画を立て、当面の運転資金を確保することが重要です。
クリニック開業の資金調達については、銀行も柔軟に対応してくれるので、先生の中にはまれに自己資金ゼロ(全額借入)で開業される方もおられます。
しかし、開業後の金利負担等を考えると、開業にかかる費用の1/3程度の自己資金を確保することが理想とされています。

休業補償対策:
院長の稼働に収入が依存するクリニックでは、自身が病気やけがで診療できなくなる可能性も考慮する必要があります。生活資金や借入金の返済、従業員への休業補償、地代・家賃などの月々の固定費をまかなうために、所得保障保険の検討をおすすめします。

損害賠償対策:
医療事故や医療訴訟へのリスクに備えるために、損害賠償対策が必要です。万一、賠償金の支払いが発生した場合に、資金不足に陥らないようにするため、掛け捨ての保険などを活用して補償金支払いのリスクを軽減しましょう。

老後資金の積立:
勇退後の生活資金を確保するために、年金や共済への加入を早めに行いましょう。また、事業上の借入金や住宅ローンの返済にも注意が必要です。事業上の借入金は経費扱いとならないため、借金を減らすために繰上返済などを行い、老後資金の確保につなげることが重要です。

■50歳代(医療法人化の検討)

クリニックの運営が軌道に乗ってくるとともに、先を見据えて手を打っていく時期となります。
医療法人化の検討や、退職金の準備など、引退後の安定を図るためのマネープランニングが重要となります。

①医療法人化と退職金の準備
医療法人化を検討する場合、院長の退職金対策が必要となります。
法人契約による生命保険の活用を検討しましょう。
契約内容によって、保険料の一部または全部を法人の経費にすることができます。
返戻率の高い商品を選ぶなど、有効な法人契約を結ぶことが重要です。

②相続・事業承継対策
将来的な相続や事業承継に備えて対策を立てることが重要です。
個人の住宅ローンは団体信用生命保険契約によって残債務がなくなりますが、事業用の借入金は残ります。
身内に負担をかけずに事業を継続するためにも、生命保険の加入をおすすめします。

また、自身の相続対策も考慮しましょう。
生前贈与を活用して長期間にわたり少しずつ贈与することで、相続時の負担を軽減することができます。

■60歳代~(勇退・相続)

サラリーマンでいうなら定年です。
そろそろ勇退し、クリニックを息子に譲り渡す時期となります。
開業資金の援助をどう工面するか思案のしどころです。
また、相続対策を本格的に行っていかなければならない時期となります。

①開業資金の援助
クリニックの敷地の名義はどうするのか?開業資金を提供する方法は、贈与にするか貸付にするのかなど、将来の相続を見越して、適切な方法で資金援助を行う必要があります。
税務面や法的な側面も考慮しながら進めることが重要です。

②相続納税資金対策
勇退後に受けとる退職金、いままでの事業収入による蓄えなどを一度整理し、現時点における相続税がいくらになるのか?を計算して相続税額をまず把握しましょう。
次にその相続税を支払うための納税資金を確保します。
生命保険の活用も考えてみましょう。

③第一次遺産分割調整対策
勇退後は、時間に余裕ができます。
この時間を使って、院長ご自身の相続について真剣に考えてみましょう。
院長の相続が発生すると、相続人で財産分割協議が行われます。
その際「争族」にならないようにするためには、遺留分を考慮した遺言書を作成するなど、万全の相続税対策が必要となりますが、遺言書さえ用意すれば揉めないというものでもありません。
相続人となるご家族の方とコミュニケーションをとって、遺言の内容について納得させておく必要があります。
なお、一時相続をプランニングするにあたり、将来、配偶者が亡くなった場合の二次相続のことも視野に入れたうえで検討しておくのが良いでしょう。

■様々な事態を考慮し柔軟なマネープランを

いかがでしたでしょうか?

今回ご紹介したマネープランはあくまでも一般的な考え方となりますので、個々の状況や目標に応じてカスタマイズしたり、専門家のアドバイスも受けることを検討してみてください。