“紙カルテの保管”について、ご存知ですか?

 

昨今、少子高齢化が進み「後継者問題」は社会問題にまで発展しています。特に「家業」としてビジネスを営んできた中小企業などは、後継者不在のために廃業を余儀なくされるケースが多く、医療業界も例外ではありません。近年は個人で経営されているクリニックの閉院が後を絶たず、場所によっては地域医療の維持が難しくなってしまうといった深刻な問題となっています。医療機関が複数ある地域であっても、患者様にとって「かかりつけ医」を失うことは生活の上で重大な問題です。そういった意味でも、「第三者へのクリニック継承」は、地域医療存続のための希望の光として注目を集めています。今回は、「“紙カルテの保管”について、ご存知ですか?」と題しまして、カルテの保管期間や保管方法などについて解説してまいります。

★閉院した場合のカルテの保管って?

万が一クリニックを閉院する場合、カルテは紙カルテ・電子カルテ、いずれの場合も5年間の保管が(医師法24条)、レントゲンフィルム又はデータに関しては撮影した疾患に関する診療行為が終了してから3年間の保管が義務づけられております(保険医療機関および保険医療機関療養担当者規則)。その他、エックス線装置等の測定結果記録、放射線障害が発生する恐れのある場所の測定結果記録なども5年間の保管が義務づけられています(医療法施行規則第30条の21、22)。厚生労働省の調査データによると、令和2年の一般診療所での電子カルテの普及率は49.9%と報告されており、これは全国の約半分のクリニックが未だに紙カルテを使用しておられることを示しています。さらにこの数字は、電子カルテの導入率が100%に近い新規開業のクリニックも含まれておりますので、継承をお考えのクリニック様では、現状ほとんどが紙カルテで診療を続けておられることが分かります。また、カルテの保管期間として義務付けられているのは5年ですが、医療事故による損害賠償請求をされる可能性があることを考えると、20年間の保管が望ましいとされていますこれは、損害賠償請求消滅時効期間が「被害者が医療機関側の過失であることを知ったときから5年間」「医療行為をおこなった時点から20年間」とされていることが理由です。クリニックは、閉院すれば終わりというものではなく、閉院してからも院長先生には様々な義務が課せられており、これらにしっかりと対応を行いながら閉院を進めていく必要があるのです。

★紙カルテの保管方法

医療機関にある紙カルテの量は、医療機関の規模や患者数によっても異なりますが、基本的には患者様が増えれば増えるほど多くなり、そのうち受付周りには収まらなくなるものです。各医療機関では、一体どのようにして保管しているのでしょうか。一般的な3つの保管方法をご紹介させていただきます。①院内の空きスペースに保管一般的な保管は、院内の空きスペースへの保管です。前に述べた通り、患者様が増えるほどに紙カルテの量も増えていくことを考えると、それなりのスペースを用意する必要があります。途中で電子カルテに切り替えた場合も、数年間は紙カルテも保存しておく必要があります。②外部の倉庫などに保管増えすぎたカルテを外部の専門業者に委託して保管しておられるところもあるようです。紙カルテに書かれていることは個人情報となるので、保管に責任を持てない点に不安を抱くこともあるかもしれませんが、専門業者であれば24時間体制でセキュリティ体制を整えているので安心です。しかし、保管には費用がかかります。だいたいの相場は段ボール1箱を1年間保管するのに約5,000円程度のようです。③データを電子化して保管データ化することで保管スペースを確保する必要がありません。ただし紙カルテをスキャンしただけのPDFデータでは原本とは認めらないため注意が必要です。紙カルテをPDFデータにして保管する場合は、電子署名とタイムスタンプを付与しなければならないと、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」により定められています。

★継承する前に、電子カルテにしておくべき?

クリニック継承時には、必然的に患者様の個人情報が入った「カルテ」の引き継ぎが必要になります。クリニック継承においては、継承元から継承先に引き継がれるカルテ情報は、個人情報保護法違反には該当せず、引き継ぎと同時にカルテの管理責任も継承先に移行されます。弊社に、クリニック継承をお考えの先生からご相談をいただく中で、よくご質問いただくのが「うちはずっと紙カルテで診療を続けてきたので、私自身やスタッフも電子カルテを使ったことがありません。電子カルテを導入していないことは継承に何か問題はありますか?」といったような内容です。承継開業をご検討されている先生からも同様に、「こちらのクリニックでは、電子カルテは既に導入されていますか?」というご質問をいただくことがあります。もちろん、既に電子カルテを導入しておられる場合は、カルテの引き継ぎが容易に行えることやスタッフの方々も電子カルテの扱いになれておられるなど、後継者の方にとってもメリットがあるでしょう。しかし実際にところ、弊社が過去に継承をご支援させていただいたクリニック様の多くは、継承時も紙カルテのまま診療を続けておられ、後継者の方が承継するタイミングで紙カルテから電子カルテへの切り替えをご検討されるケースがほとんどですので、どうかご安心下さい。

★クリニックの譲渡・継承に関するご相談を承っております

いかがでしたでしょうか。前述のように、万が一クリニックを閉院する場合でも、院長先生には閉院後にもカルテの保管義務などの様々な責任が課せられており、大きな負担となってしまうという実情がございます。弊社では、引退(閉院準備、第三者継承、親子間継承など)に関する無料の個別相談を承っております。何か少しでもご不安やお悩み事がございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。