クリニック継承のポイント~持ち分有りの医療法人の場合~
昨今、病院及び診療所すべての施設区分において、個人経営の施設数が減少する一方で、医療法人経営の施設が増加しており、開設主体が個人から法人へシフトしていく傾向が今後益々増加していくと伝えられています。
医療法人における後継者問題は、理事長個人・医療法人のみにとどまらず、地域という観点からも重要な課題であるといえるでしょう。
医療法人には、平成19年3月31日以前に開設された持分有りの医療法人(経過措置型医療法人とも)と、平成19年4月1日以降に開設された持分を持たない「基金拠出型医療法人」の2つが存在します。
今回は、「クリニック継承のポイント~持ち分有りの医療法人の場合~」と題しまして、医療法人全体の8割近くを占める「持ち分有りの医療法人」を第三者に継承する場合の注意点について解説致します。
◆持分ありの医療法人とは
まず最初に、「持分ありの医療法人」とは、社団医療法人であって、その定款に出資持分に関する定め(社員の退社に伴う出資持分の払戻し及び解散に伴う残余財産の分配に関する定め)を設けているものをいいます。第五次医療法改正により、出資持分のある医療法人の新規設立はできなくなりましたが、既存の出資持分のある医療法人については、当分の間、存続する旨の経過措置が取られています。
◆持分有りの医療法人を第三者継承する際の注意点
1.出資持分にかかる税務出資持分のある医療法人を、親族以外の後継者が事業継承により引き継ぐ場合には、社内または第三者である後継者が現経営者(現出資者)から出資持分を買い取ることが想定されます。この出資持分には財産価値があるため、相続発生時には相続税の問題も考慮しなくてはなりません。その買い取り資金は自己資金や金融機関からの借入で調達することになりますが、出資金は経費化できず、また買い取った出資持分に関して配当が行われないため、後継者にとっては大きな負担を強いられることになります。民間非営利部門である医療法人は、収益の配当が禁止されているため、これまで積み上げてこられた剰余金が膨らみ、出資持分の価値が高額になる傾向があります。
出資持分を生前贈与や相続により引き継ぐ親族後継者は、多額の贈与税や相続税を納税しなければいけない場合があります。社内継承や第三者継承の場合には、出資持分の譲渡対価を、後継者が準備しなければなりません。出資持分に対する配当が期待できないことから、後継者にとって大きな負担となります。 また、出資者にあたる現経営者に対しては、譲渡時出資持分の含み益に対して、所得税・住民税が課されます。回避策として、特定医療法人や社会医療法人などの持分なし医療法人へ移行することで、結果的に税負担を軽減する方法もありますが、今度は医療法人に対して贈与税が課税されることとなります。この医療法人に対しての贈与税は、認定医療法人制度を活用することで免除(認定要件を充たす場合)が可能です。 ただし、一度出資持分のない医療法人に移行した後は、持分あり医療法人には後戻りできないため注意が必要です。
2.社団医療法人においては3名以上の社員が必要一般的な株式会社の場合、自社株式の過半数を後継者に譲渡すれば、株主総会決議における主導権を掌握できます。一方で医療法人においては、社員一人ひとりが1個の議決権を持ち、資本多数決の原理にとらわれません。医療法人における重要な職務執行の決定は、各理事に委任することはできず、理事会で決定しなければなりません。社団医療法人においては、理事会は3名以上の社員で構成されますが、職務執行を行う理事とは異なり、社員に対して報酬は支払われません(理事兼社員の場合には理事報酬の支払いが発生します)。その為、医療法人の事業継承の際には、社員に就任してくれる人材を事前に確保しておくことも重要なのです。
3.経営権の譲渡さらに、理事長ポストである「経営権」の継承も完結させなければなりません。株式会社における代表取締役は、欠格条件に該当しない限り誰でも選任することができます。しかし、医療法人の理事長は、原則医師又は歯科医師でなければならないという決まりがあるため、一般企業のM&Aに比べると後継者候補の選択肢が限られるという特殊性があります。そういったことからも、クリニック継承を専門に行っている仲介業者に相談することをお薦めします。
◆医療法人の事業継承もお任せください
いかがでしょうか。このように持分ありの医療法人の継承はその特殊性から、クリニックを専門とする仲介業者の介在なしには思うように進まなかったり、承継後に思わぬリスクを抱え込んでしまう可能性もあります。
弊社には、これまで600件以上のクリニック支援実績を持つ日本医業総研と提携し、医療法人の事業継承も多数ご支援してまいりました。
閉院や継承に関するご相談を承っております。是非お気軽にお問い合わせください。先生方の大切なクリニックの今後について、一緒に考え、少しでもお役に立てる場面があれば幸いです。