クリニックスタッフの昇給、どうすればいいの?

昨今、一般企業に関して定期昇給(定昇)やベースアップ(ベア)といった言葉がニュース内では飛び交っており、クリニックの経営者である開業医の先生方も、スタッフの給与や昇給についてお悩みになられることも多いのではないでしょうか。

今回は、「クリニックスタッフの昇給、どうすればいいの?」と題しまして、年度初めの4月に定期昇給を実施しているAクリニックのA院長のお悩みを例にあげ、クリニックスタッフの定期昇給やベースアップ、さらには長く定着してもらうための工夫や人材難を解消するための解決策などについて解説致します。

AクリニックのA院長のお悩み

開業から20年目を迎えるAクリニックのA院長。
例年、年度初めの4月には定期昇給を実施しています。
しかし、これまできっちりと給与表を整備せず、根拠を持たずに決めてきたことが仇となり頭を悩ませているようです…
最近はスタッフを募集してもなかなか応募が来ず、人材確保も難航しているため、スタッフの定着を図るためにも今後の昇給はしっかりとした基準を設け、明確な考えをもって決定しなくてはならないと思い、コンサルタントに相談するに至りました。

さて、スタッフの定着率を高めるためにも重要となる「昇給」ですが、一体どのような基準で対応すればよいのでしょうか?

定期昇給(定昇)とベースアップ(ベア)の違いって?

定昇とベアを同じように捉えている方もおられますが、実際にはこの二つは似て非なるものです。
まず定昇は、毎年4月に行うのが一般的です。
勤続年数を重ねことで、基本給が自動的に上がっていきます。
例えば、グラフ①のように、毎年3,000円ずつアップするといった形になります。

次にベアは、グラフ②のように給与表を全体的に一定率又は一定額引き上げることを言います。
全体の給与水準自体を上げることになるので、例えば定昇により3,000円上げ、同時にベアを4,000円上げると、基本給が7,000円も増えることになるのです。

近年、大手企業の多くがこのような大幅な給与アップを実施するといった内容のニュースをよく耳にしますが、大手企業と医療機関等の状況は異なりますので、必ずしも合わせなくてはならないということではありません。
大幅な昇給を続けた結果、経営が赤字になってしまうと、最悪の場合クリニックを閉鎖せざるを得なくなりスタッフを解雇することにもなりかねません。
このような事態を招かぬよう、経営とのバランスを常に考えておく必要があります。

とはいえ、定昇についてはスタッフの生活を支える重要な部分ですので、きちんと報いるべきでもあります。
万が一経営が不安定である場合には、「毎月の給与は生活保障、賞与は業績分配」という考えに基づき、賞与などで調整するといった方法もあります。

給与表の必要性

A院長の例のように、給与表を決めずに運営してきた場合、従来の延長で対応するのが基本ではありますが、5年後…10年後を見据えて昇給を考えなくてはなりません。
昇給を続けた結果、気付いた頃には給与が月額35万円を超え、支給額が仕事内容に見合わない程、高くなってしまい、引き下げを検討しなくてはならない…と、心苦しい思いをしておられる経営者の方も珍しくありません。
「いつの間にか給与額が高くなりすぎたので引き下げたい」という相談は、スタッフ本人も納得し難い話でしょうし、トラブルにもなりかねません。
そういった意味では、途中からであっても「給与表」を設定されることをお薦めします。
医療機関の中には、「勤続年数5年目までは昇給4,000円、6年目以降は3,500円」というように勤続年数に応じた昇給ルールを設定するケースもあるようです。

このように、今働いているスタッフやこれから入職するスタッフが、この先5年、10年、15年…と働き続けた場合に毎月の給与がとのように推移するのかを業務内容などとのバランスを勘案しつつイメージしなくてはなりません。

今後、一般企業だけでなく医療業界も同様に人材難の時代が続くと言われています。
これらの状況に対応していくためには、前述のように賃金の引き上げを検討する余地はあるかもしれませんが、これらは経営圧迫にも繋がりかねませんので慎重に検討しなければなりません。

また、若い世代においては、ワークライフバランスを重視し、給与の高さよりも休みの多さや残業の少ない環境を求める傾向が強くなっているようです。
定昇については、一旦例年の延長で実施する一方で、クリニックの休日数を増やしたり有給休暇の取得をしやすくするなどの「働きやすさ」を改善することもスタッフの定着や人材難への解決策としては有効なのではないでしょうか。

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いかがでしたでしょうか。
クリニックの運営費の中でも大きな割合を占める人件費ですが、本事例のように、その複雑さ故に「開業当初はあまり深く考えずに決めてしまい、後になってから頭を抱えることになってしまった…」というケースも決して珍しくはありません。

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