クリニックの災害対策、何から始める?
昨今の大地震や大水害の報道を目にする度に、「自院も何か対策を講じておかなければならないが、何から手をつけていいのか見当がつかない…」という院長先生も多いのではないでしょうか。
今回は「クリニックの災害対策、何から始める?」と題してまして、クリニックにおける災害対策の基本について解説してまいります。
◆事前にできる災害対策って?
近年、元旦に発生した能登半島地震などのように、多くの国民が想定もしていなかった地域で大地震が起きたり、数十年に一度といわれるような大水害が頻繁に発生しております。
どこかで大地震などが発生する度に、多くの事業所が災害対策の検討を始めます。
しかし、時間が経つにつれ、通常の業務に比べて優先順位は段々と下がっていき、中途半端なままになってしまうケースが少なくありません。
また、検討が進んでも、細かい点で議論が止まってしまい、ゴールを見失ってしまうこともしばしばあるようです。
このように、中途半端なままになってしまうのを防ぐためには、まずは災害対策ルールの適用を開始する時期を決めることが重要です。
そのスタート時期に向けて具体策の検討を進めていき、その時期が来たら内容が少々大雑把であったとしても、まずはスタートしてみるのがよいでしょう。
◆具体的に何から検討する?
では、一体何から検討を始めればよいのでしょうか。
検討の対象となる災害は地震に限らず、洪水や津波、火災など様々なケースが想定されます。
医療機関や福祉施設においては、患者さんや利用者の方を第一に考えることになりますが、クリニックの場合はまず、災害時にも治療を中断することなく継続ができる環境を整備することが重要となります。
つまり、停電に備えた非常用電源の設置などです。
病院は当然のこと、人工透析クリニックには必ず自家発電設備が備わっていますが、一般クリニックでの普及率はまだまだ低い状況です。
電子機器や通信機器が使えなければ、検査もできませんし、電子カルテも開けません。
抗体医薬品やワクチンも常時冷蔵保存が必要です。
設備投資は少なくないでしょうが、災害時の身近な砦とするのならば、まずは医療提供機能は最低限保持することを検討してみてはいかがでしょうか。
次に検討すべきは、どのような方法でスタッフの安否などの状況を確認するかという問題についてです。
災害時にはクリニックに勤務するスタッフの自宅の被災もあり得るので、安否確認を含め、スタッフとの連絡方法をどうするのか決めておく必要があります。
①緊急連絡網(電話)
一般的な方法の一つは緊急連絡網での連絡です。
院長を起点にして一本の線でつなぐという方法もありますが、部門別や居住エリア別に五人程度のグループで枝を分けておく方が、途中で連絡が止まることが少なくなり便利です。
しかし、自分の携帯電話の番号などを他のスタッフや院長に知られたくないという人もおり、プライバシーの問題もあるので同意を得てから提供してもらうのが基本的な対応となります。
入職時に誓約書等と一緒に緊急連絡票といった書式を提出してもらうのがよいのではないでしょうか。
②SNSを活用した連絡方法
最近では殆どの人がスマートフォンを持っており、電話での緊急連絡網はあえて設定せず、有事の際にSNSのグループを緊急に立ち上げるという方法も有効です。
その際には、クリニックスタッフ全員がSNSを利用できる環境にあることを事前に確認しておく必要があります。
また、SNSのグループはあらかじめ立ち上げておくのではなく、有事の際に新規で立ち上げることもポイントです。
事前にグループを作ってしまうと、業務とは関係のないやり取りが行われたり、プライベートでは関わりたくないスタッフから連絡を受けて嫌な気分になる人が出てしまったりという事態も想定されます。
◆三つの視点から役割を分担する
スタッフへの連絡手段の次に検討すべきは、組織内での役割分担についてです。
院長先生は経営トップでありながら、災害時にも診療を続けなくてはなりません。
そのため、院長先生ご自身の負荷を最小限にとどめられるよう、スタッフに色々な役割を担ってもらうことが現実的です。
ここで、役割分担について以下三つの視点から考えていきましょう。
①患者さんの視点
患者さんの視点とは、例えば診療中に大地震が発生して患者さんが帰宅できなくなった場合や、停電により機器が動かず治療ができない場合などにどうするのかを考える視点です。
患者さんの送迎が誰がどう行うか、水などの災害備蓄を用意しておく方がよいのか…などについて検討します。
②スタッフの視点
前述にあった安否確認や災害時にクリニックを稼働させるための人員手配などを担ってもらう役割です。
院長に代わって、色々とスタッフをまとめてくれる人を決めておくと安心です。
③運用の視点
最後に運用の視点とは、決めたルールを定期的に見直したり、防災の日の訓練実施などを計画する役割です。
①・②・③の視点を踏まえ、必要な役割を洗い出したら、それぞれを担ってもらうリーダーやサブリーダーを決めておくと尚良いでしょう。
リーダー・サブリーダーに対しては、災害対策に関する打ち合わせも労働時間として扱い、ランチミーティングなどの飲食代をクリニックが負担するといった方法をとるとモチベーション維持にもつながるのではないでしょうか。
◆クリニックの運営・譲渡・閉院等に関するご相談を承ります
いかがでしたでしょうか。
大企業などでは災害対策マニュアルなどを詳細に作り込むケースが散見され、マニュアル作成がゴールになりがちです。
しかし、あくまでも主目的は「いつ発生するか分からない未曽有の災害に対し、院長自身の負荷を最小限に抑えるための体制を整えること」です。
災害時における情報、体制、診療などについて事前に想定される主だった対策はスタッフに任せ、突発的に必要となる対応については院長自身が判断し、動いていくという体制を日頃から構築していくことがクリニックの災害対策においては最も重要なのではないでしょうか。
また、そのような風土を作る過程で、職場の一体感も自然に高まってくるはずです。
弊社では、グループ内に税理士法人や社労士法人を有するクリニック経営に特化したコンサルティングファームである日本医業総研と協業し、クリニック運営や引退(継承・閉院等)に関するサポートを行っております。
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