開業に適したタイミングって??

今回は『開業に適したタイミングって??』と題しまして、具体的な失敗談をもとに、クリニック開業に適した時期はあるのかについて、見てまいります。

◆K先生の失敗談

大学の医局人事で関連病院に勤務する40代の内科医のK先生。
希望の開業エリアでスムーズに物件を見つけ、いよいよ医局に退職を願い出ることに…。
6月に医局に知らせば、遅くとも年内には退職し、翌年2月頃には開業できるだろうと考えていましたが、いざ退職の意向を伝えると、勤務医不足の影響で「後任人事には時間がかかるから、もう少し待って欲しい」と難色を示されてしまいました。

話し合いの結果、翌年2月の退職で合意し、4月に内科クリニックをオープンする見込みが立ちました。
開業準備を見越して、早々に物件の賃貸借契約を済ませ、1月から賃料が発生してしまうことになりましたが、余分な負担が3ヶ月分で抑えられるなら許容範囲だと考えました。

その後、K先生は無事2月に退職し、4月にクリニックを開設し保険診療をスタートしました。
オープン初日は30人もの患者さんが来院し、好調なスタートかに思えましたが、翌日からは患者数は減る一方。
冷静になって考えてみれば、春先は冬場とは違い風邪などが少ないシーズンです。
気を取り直して、冬場の繁忙期に備えるための準備期間だと前向きに捉え、スタッフ教育や院内の仕組みづくりに積極的に取り組んだK先生。
春以降も1日の来院患者数は多い時でも20人に届かず、1ケタという日も珍しくありません。
しかし、患者さんが少なく十分な収入が確保できなくても、テナントの賃料や人件費、借入金の返済は発生します。
そうこうしているうちに、運転資金も底が見え始め、さすがに不安が隠せなくなってきたK先生でしたが、「秋ごろになればインフルエンザの予防接種で弾みがつくので、あと少しの我慢…!」と自分に言い聞かせてなんとか10月を迎えることができたようです。
10月以降は当初の読み通り、インフルエンザの予防接種や風邪の患者さんが徐々に増加。
閉院という最悪のシナリオは回避することができ、安堵のため息をつくK先生なのでした。

◆開業時期と季節変動

周知のとおり、一部の診療科を除き、クリニックの売り上げには季節変動があります。
内科の場合は、風邪やインフルエンザが流行する秋季から冬期に患者さんが増加し、1~2月にかけてピークを迎えます。
その他では、花粉が増える春先には耳鼻咽喉科が、梅雨から夏季にかけては皮膚科が需要期になると言われています。
これらの季節変動を開業時期にどう反映させるかは、2つのポイントが重要になります。

ポイント①:需要が発生するタイミングに合わせた開業
事業を成功させるためのセオリーとしては、当然ですが需要期を迎える直前に照準を合わせ、開業日を設定することが望ましいと考えられます。
需要が発生するタイミングに合わせた開業は、地域における認知度アップにもつながるでしょう。
また、資金繰りの面でも、患者数も多く初診の方がメインとなるため、運転資金に余裕ができ、スタートから安心して診療に専念することができます。
開業時から多くの患者さんが来院すれば、スタッフも「人気のあるクリニックで働いている」という実感を持つことができ、モチベーション向上にもつながるでしょう。

ポイント②:中・長期的な経営を重視する視点
一方で、クリニックの経営は中・長期的な視点も重要です。
サービス体制が整っていない状態で繁忙期を迎えスタートしてしまうと、逆効果になってしまう可能性もあります。
閑散期とはいえ常に一定の医療ニーズは見込めますし、地域で評価が定着したクリニックでは、季節によって極端に売り上げが落ち込むということもありません。
経営を年単位のサイクルとして捉えれば、需要期の開業に特別に固執する必要もないと考えることもできます。
例えば、テナントの賃料が既に発生しているにも関わらず、需要期の直前まで開業を延期する必要はないということです。
また、クリニックスタッフの待遇や研修、院内サービスが整わない状態で、開業スタートを予定よりも前倒ししてしまうと、患者さんからの第一印象を悪くしてしまい、患者定着を妨げてしまう要因にもなりかねません。
また、公費によるインフルエンザワクチンなどの受託医療機関リストの作成は春季に行われます。
そのため、需要期に必要となるワクチンの確保に十分な余裕ができるという点では、今回の事例のように、春季の開業にも十分メリットがあると言えるでしょう。

クリニックは“継続性”を重視しなければならない事業です。
ですので、それぞれの季節のメリット・デメリットはありますが、それ以上に長期的な視野を持って開業時期を判断することが何よりも大切なのではないでしょうか。

◆クリニックの開業・運営に関するサポートを承っております

いかがでしたでしょうか。
今回取り上げたK先生の事例では、勤務先の退職時期の都合で、当初予定していた開業期を逸してしまったという内容でした。
経営が軌道に乗るまでの間の資金繰りに不安な毎日を過ごすことになったK先生でしたが、開業当初こそ苦戦したものの、半年後の需要期にはなんとか軌道に乗り、最悪のケースは免れることができました。
本事例のケースのような場合、本来は勤務先との退職時期の交渉がうまくいかずに後ろ倒しになった時点で、資金計画を見直すべきだったのかもしれません。
そうすれば、追加で発生する運転資金を手当てしたり、場合によっては物件の契約を延期する等の対策を講じることができたのではないでしょうか。

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