医療法人の理事長、退職金の適正額って?

今回は、『医療法人の理事長、退職金の適正額って?』と題しまして、Sクリニックの事例を基に、医療法人理事長の退職金の考え方等について詳しく解説してまいります。

≪医療法人Sクリニックの事例≫

後継者の息子が引き継ぎのためにクリニックに勤めてくれるようになり早3年が過ぎたSクリニック。
患者さんの引き継ぎも順調に進み、そろそろ引退しようと考えているS院長。
しかし一つ心配事が。
これまで長年働いてきたので、それなりのの備えはあるものの、この先収入が完全に無くなってしまうことに不安を感じているようです。
そこで退職金である程度のまとまったお金が受け取れればと考え、一体どれくらいの金額を受け取ることができるのかを調べてみたところ、「退職金にはある程度の適正金額があり、それを超えると税金面でも不利になるかもしれない」という記事を目にして、「さて?どうすればいいものか?」と一度プロに相談してみることに決めたS院長なのでした。

開業医の退職金って?

企業に勤めるサラリーマンの場合、定年退職の際には退職金が支給されるケースが一般的です。
では、ご自身で開業されているクリニックのケースでは、どうなのでしょうか?
まず、個人経営のクリニックと医療法人のクリニックでは取扱いが異なります。

①個人経営のクリニックの場合
クリニックの利益がそのまま院長個人の利益であると考える為、ご自身が受け取る退職金を必要経費として計上することは認められていません。
したがって、後継者に医業を継承する場合や、万が一院長に不幸があった場合も、小規模企業共済などに加入していない限りは院長やご遺族はクリニックの経費として退職金を受け取ることはできないのです。

②医療法人のクリニックの場合
一方、医療法人の場合は、医療法人本体とその役員である院長とは法的に別人格とみなします。
ですので、医療法人から役員に対して退職金を経費計上することが可能です。
ただし、退職金の経費計上が認められると言っても無制限に認められるわけではありません。

以下、医療法人のクリニックにおける退職金の取扱いについて見てまいります。

医療法人側の取扱い

①通常退職時の退職金
医療法人の役員が退職する際には、医療法人の役員退職慰労金規定に基づき、一般的な適正額を上限に「退職慰労金」または「特別功労金」などの名目で支給が可能です。
また、それらの金額は経費の対象となります。
一般的な適正額の算出方法は、退職慰労金の場合「最終の月額報酬×役員在籍年数×功績倍率(1~3倍)」で計算されます。
特別功労金の場合は、法人の運営に特別な実績が認められれば死亡退職金の30%までの金額が支給されます。

②死亡時の退職金
万が一役員に不幸があった際は、①通常退職時の退職金と同様に役員退職慰労金規定に基づき、退職金や弔慰金を支給可能です。
死亡退職金は①通常退職時の退職金と同様の計算式で算出します。
また、弔慰金の支払い金額については、業務上で亡くなったかどうかで計算式が異なります。
業務上で死亡した場合は、死亡当時の給与×36カ月
業務外で死亡した場合は、死亡当時の給与×6カ月
上記の範囲内であれば相続税の対象とはならないため、適正金額と考えられます。

退職金受給者側の取扱い

次に、退職金を受給した側の取扱いについて見ていきましょう。

①通常退職時の退職金の場合
通常の退職時に支給される退職金の場合は、退職所得として給与所得や他の所得とは別で分離課税されます。
また、「退職所得の需給に関する申告書」の提出により、退職所得控除を受けることができ、通常の給与所得にかかる所得税に比べると税負担を軽くすることが可能です。

つまり、その控除額を超える金額に対して所得税及び住民税が課税されるのです。

以下、退職金の税額を算出するための計算式です。
所得税:(退職金の金額-退職所得×2分の1)×所得税税率
住民税:(退職金の金額-退職所得控除額×2分の1)×10%

退職所得控除額の計算式についてもみておきましょう。
勤続年数が20年以下の場合:40万円×勤続年数
※80万円に満たない場合は、80万円
勤続年数が21年以上の場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

②死亡時退職金の場合
死亡時に支給される退職金の場合は、本人は既に亡くなっているため、ご遺族の方が相続の対象となります。
前述で解説した死亡退職金や特別功労金などの退職金は、その合計額から非課税限度額を控除した金額が課税対象となります。
非課税限度額の算出は次の計算式で行います
非課税限度額:500万円×法定相続人の人数

さらに、弔慰金や花輪代、葬祭費などの名目で受け取ったお金は相続税の対象とはなりませんが、この弔慰金は死亡時退職金の計算式で算出された金額を超える場合、その超過額に対して相続税が課税されてしまうので、注意が必要です。

みなし退職金って?

最後に、まだまだ現役継続中の院長が後継者に権限を移譲したいと考えている場合や、退職金を早く計上したいと考えている場合に活用できる「みなし退職金」について解説します。

この「みなし退職金」は、理事長の立場からは降格するものの、理事として今後も在任する場合や役員報酬が降格などにより大幅に減少してしまう場合などに、“実際には退職していないが、退職したものとみなして支払うことができる退職金”のことです。
このみなし退職金は経費計上が認められており、この方法を活用することで医療法人の資産減少にもなるため、出資持分を移転する際の法人の評価を下げる手段としても有効です。
ただ「みなし退職金」の活用には以下の条件に全て当てはまることが前提となるため注意が必要です。
①理事長から理事、知事から監事等の役員の降格
②役員報酬が50%以上減額
③経営権を所持していない

クリニックの運営・継承・閉院などに関するご相談を承っております

いかがでしたでしょうか。
本記事では、退職金の適正額について解説してまいりましたが、クリニックで比較的に多いのは、適正額を超えた所謂「過大退職金」です。
退職金を受ける先生は大きな影響を受けません(全額退職金として税が優遇されます)が、支払った法人側は、過大分が損金不算入となり法人税が発生します。
この過大退職金については、税務署が過大とみなすかどうか、バレるかどうかに数年間ハラハラするのも大きなストレスとなりますので最初から過大申告して処理しておくことをお薦めしております。

弊社では、グループ内に税理士法人や社労士法人を有するクリニック経営に特化したコンサルティングファームである日本医業総研と協業し、クリニックの運営や引退(閉院準備、第三者継承、親子間継承など)などに関するサポートを行っております。
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