跡継ぎ不在でも医業継続を可能にする第三の選択肢って?<前編>
超高齢社会を迎え人口減少が続く日本では、後継者がおらず閉院を余儀なくされている開業医の方が増えてきております。
クリニックが閉院してしまうと「スタッフの雇用や地域医療が維持できなくなる」、「各種手続きや費用の面で院長自身にも大変な負担がかかる」など、地域医療への影響や院長先生ご自身にとっても大きな負担が伴います。
今回は、「跡継ぎ不在でも医業継続を可能にする第三の選択肢って?<前編>」と題しまして、開業医の跡継ぎ問題にある社会的背景や、昨今注目されている『第三者継承』について詳しく解説していきます。
後継者不足は深刻な社会問題
後継者不足は今、日本の社会全体が抱える課題になっています。
中小企業・小規模事業者の後継者問題について詳しい調査が行われた2020年版の「中小企業白書」によると、経営者の平均年齢は60歳を超え、70歳以上の経営者が占める割合が年々上昇。
さらに経営者が60歳代の企業のうち約5割、経営者が70代の企業のうち約4割が、後継者不在であるという調査結果が出ていました。
医療業界でも一般企業と同様、後継者問題が浮き彫りになっており、開業医の8割以上が「跡継ぎがいない」状態であると言われています。
跡継ぎがいないために高齢でも無理をして現役継続を余儀なくされていたり、断腸の思いで閉院を決意されるケースが多くなっています。
参考:2020年版 中小企業白書 第1部 令和元年度(2019年度)の中小企業の動向│中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b1_3_2.html)
「跡継ぎがいない」と悩む開業医が増えた理由
開業医の後継者不足問題には、少子高齢化や労働人口の減少に加え、医療業界ならではの事情や、世の中の価値観が変化したことなども関係しています。
ここでは、跡継ぎの不在に悩まされる開業医が増えている理由を、さらに深掘りして見てまいりましょう。
理由その①:開業医に子がいない
これまでの日本における医業は、親子間で継承・承継される世襲が多く、特に個人経営のクリニックは典型的なファミリービジネスの様相を呈していました。
しかし近年は少子化が進み、跡継ぎとなる実子がいない開業医も珍しくありません。
何十年か前であれば、実子のいない開業医は親戚に医院を継承したり、養子を迎えて跡を継がせたりしていました。
しかし現在では、少子化によって遠縁まで辿っても跡継ぎになりそうな年齢の親戚が見つからないケースも多く、養子を迎えてまでクリニックを残そうとは思わないという開業医がほとんどでしょう。
第二次ベビーブームで生まれた団塊ジュニア世代(1971年~1974年生)が引退を検討する時期が来ると、ますます開業医の跡継ぎ問題は深刻になると考えられます。
理由その②:開業医の子や親族に医師免許を持つ者がいない
開業医に子や親族がいたとしても、当然ながら医師免許を持っていなければクリニックの跡を継ぐことはできません。
承継する者に医師免許が必須であることは、クリニックの継承が難航する大きな要因のひとつだと言えます。
医師免許を取得するためには、医科大学や大学の医学部で6年間学び、国家試験に合格しなければなりません。
また、医師免許を取得してからも2年間の臨床研修が課せられます。
一人前の医師となり跡を継ぐためには、この過程をすべてクリアしなければならないのですが、医科大学や医学部の競争率は非常に高く、簡単に超えられるハードルではありません。
子が小さな頃から勉強を促すことはできても、「家業を継ぐ」ことが当たり前ではなくなった現代の価値観では、なかなか難しい側面もありそうです。
理由その③:医師免許を持つ子や親族がいても継ぎたがらない
医師免許を持っていたとしても、子や親族がクリニックの跡を継ぐことを拒否するケースも多いようです。
個人経営のクリニックの院長は、医師としての役割と経営者としての役割の両方を担うこととなります。
つまり、患者を診るだけではなく、経営・運営面でも采配を振るっていかなければならないため、大変な苦労があるのです。
その姿を間近で見てきた子や親族が「継ぎたくない」「開業医になりたくない」と考えてしまうのは、無理もないことかもしれません。
もちろん跡を継がない理由には、「開業医は大変だから」「リスクが大きいから」といった消極的なものだけではなく、勤務医として働くことに大きなやり甲斐を見出しているパターンもあります。
たとえば「大きな病院で自身の専門分野を追究したい」「救急医療や急性期医療の最前線にいたい」などの目標があると、家業を継ぐことには魅力を感じにくい一因になっている可能性があります。
跡継ぎがいない開業医の選択肢は2つ
では跡継ぎがいない開業医にはどのような選択肢があるのでしょうか。
選択肢①:閉院する
冒頭でも述べたように、跡継ぎ不在のために閉院するクリニックは年々増えています。
後継者問題で悩んだり家族を煩わせたりするよりは、自分が選んだタイミングで引退するほうが良いと考える開業医が多いようです。
ただ、長い年月にわたって心血を注ぎ運営してきたクリニックを閉院することは、開業医にとって辛い選択であるとともに、以下のようなハードルが考えられます。
まず、閉院にはコストがかかります。
建物の取り壊しや賃貸物件の原状回復にかかる費用、医療機器・医療用品・薬剤などの処分費用、登記や法手続きに関わる費用、スタッフの退職金等のほか、借入金があれば残債も清算しなければなりません。
クリニックの廃業コストは、条件次第では1,000万円以上に膨れ上がることも珍しくありません。
また、身近な“かかりつけ医”を失う患者さんや、勤務先を失うスタッフにも多大な影響があります。
特に医療機関が少ない地域では、地域医療や雇用の維持に大きく影響する可能性があり、閉院に踏み切れず悩まれる院長先生も多いのではないでしょうか。
選択肢②:第三者に医院継承する
第三者への医院継承とは、親族以外の人にクリニックの経営権を売却・譲渡することです。
医院が継続することは、医療提供の継続だけでなく、患者さんやスタッフの雇用継続につながり、さらには前述した閉院コスト削減のほか、一定の評価に基づく譲渡対価(=営業権・のれん代)を受け取れるといった様々なメリットがあります。
一方、「どのように後継者候補を探せばよいのか?」「譲渡額はどうやって決めればよいのか?」「継承する為の手続きはどう進めるのか?」など、円滑に進めるためには医療・経営面以外の様々な知見が必要となり、院長先生が個人で進めることは大変ハードルが高い方法でもあります。
クリニックの運営・継承・閉院などに関するご相談を承ります
いかがでしたでしょうか。
今回は、開業医の跡継ぎ問題にある社会的な背景や、クリニックに跡継ぎがいない場合の選択肢について取り上げました。
後編では「第三者継承の具体的な進め方」について詳しく解説致します。
弊社では、引退(親族間継承、第三者継承、閉院準備など)に関する無料の個別相談を承っております。
「そろそろ引退を考えてはいるものの、患者さんやスタッフ、家族のことを考えると中々踏み切れずにいる」
「引退はまだまだ先のことだが、子がいないので将来について考えておきたい」
「第三者継承する場合、譲渡額がどれくらいになるのか目安を知りたい」など、
引退に際してのお悩み事がございましたら、是非お気軽にお問い合わせください。