クリニックの親子間継承~手続き編~(前編)
クリニックを継承するにあたって、「親から子に引き継ぐことは、第三者への継承よりもスムーズにできる」と考える先生も少なくないでしょう。
しかし実際には、基本的な手続きの流れにおいて親子間継承と第三者継承では特段大きな違いはなく、むしろ親子だからこそ必要となる手続きも生じます。
「クリニックの親子間継承~手続き編~(前編)」では、親子間継承で必要となる具体的な手続きやスムーズに継承するためのポイントについて解説します。
■クリニック継承の流れと必要な手続き
クリニック継承は親子間・第三者を問わず、一般的に下記のような流れで進めていきます。
1.現院長と新院長の間で医院継承の契約を交わす(事業譲渡契約書)
2.所管の保健所や行政機関と事前協議を行う
3.廃業届および開業届の提出
4.現院長および新院長の両方が保険医療機関指定の申請を行う
親子間継承においては1を省略するケースもありますが、親子だからこそ継承後に摩擦が生じてしまうといったことも考えられます。
ですので、第三者継承の場合と同様に事業譲渡契約書を作成しておくことをお薦めしております。
次に、クリニック継承で必要となる具体的な手続きについて見てまいりましょう。
①「廃業届」と「開業届」の提出
個人経営のクリニックを継承すると開設者や管理者が代わるため、親子間継承であっても廃業と開業の手続きが必要です。
継承から1ヶ月以内に、現院長(親)は廃業届を、新院長(子)は開業届を提出します。
親子間継承ではクリニックの名称を変更しないまま引き継ぐケースも珍しくないので、「廃業」というイメージは湧きにくいかもしれませんが、廃業届を提出しなければ、現院長が引退した後にも個人事業税などを課税されてしまう可能性があるため注意が必要です。
手続きに添付書類等は必要ありませんが、役所が受領した後に不備や不明点があった際には、追加で書類提出を求められることもあります。
所管の税務署および都道府県税事務所、市町村など複数の提出先があるため、漏れがないように気を付けましょう。
②税金関連の届出・申請
税金関連の届出・申請は、クリニック継承に必要な手続きの中でも特に煩雑なものです。
クリニックを引き継いだ新院長(子)は「個人事業主」になるので、前述した廃業届・開業届の提出以外にも税金関連では以下のような手続きが発生します。
・青色申告の承認申請
・青色専従者の届出
・源泉所得税の納期特例の承認申請
・給与支払事業所等の開設届出
・棚卸資産の評価方法の届出
・減価償却資産の償却方法の届出
・消費税課税事業者の届出(自費診療が多い場合に届出が必要になることがあります)
売上の管理や税務申告を確実に行うためには、税金関連の手続は必須事項です。
また、各種届出・申請はそれぞれに期限が定められており、期限を過ぎると税務上の特典を受けられない場合があります。
必要な手続きについては、事前に洗い出しておき、早めに準備を進めておくのが良いでしょう。
③保険医療機関指定の申請
保険医療機関指定の届出は、現院長(親)と新院長(子)の双方で必要となります。
現院長(親)は「保険医療機関廃止届」を、新院長(子)は「保険医療機関指定申請書」を、それぞれ所管の社会保険事務所に提出します。
保険医療機関指定申請書の締め切りは各県によって異なりますが、保険医療機関として指定されるのは原則毎月1日付けです。
つまり、タイミングを逃すと保険診療が請求できない期間が約1ヶ月も発生してしまうのです。
せっかく順調に準備をすすめてきた継承が先延ばしになってしまわぬよう、入念に期限をチェックして院長交代の月の1日の指定に間に合うように手続きを行いましょう。
④その他の手続
廃業と開業、税務関連の届出・申請以外にも、クリニックの継承には細々とした手続きが発生します。
具体的に例をあげると、リース契約の医療機器等がある場合には、現院長(親)から新院長(子)へ契約者の変更手続きが必要です。
また、賃貸・テナントで開院している場合は、不動産関連の名義変更も忘れてはいけません。
その他、継承を機に院内の内装・レイアウトの変更を行ったり、医療機器のメンテナンス・入れ替えを行うケースも珍しくないでしょう。
いざ継承してから慌てるということがないように、これらの事項についても事前にしっかりと話し合い、スケジュールを逆算しながら計画的に動くことをお薦めします。
■クリニックの継承や閉院に関するご相談を承ります
いかがでしたでしょうか。
前編では、クリニック継承の基本的な手続きや流れについて解説してまいりました。
次回、後編では親子間継承ならではの贈与や相続に関する手続き等について詳しく見てまいります。
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