クリニックの親子間継承~手続き編~(後編)

クリニックを継承するにあたって、「親から子に引き継ぐことは、第三者への継承よりもスムーズにできる」と考える先生も少なくないでしょう。
しかし実際には、基本的な手続きの流れにおいて親子間継承と第三者継承では特段大きな違いはなく、むしろ親子だからこそ必要な手続きも生じます。

クリニックの親子間継承~手続き編~(後編)」では、親子間継承ならではの贈与や相続に関する手続き等について詳しく見てまいります。

■親子間継承では「贈与」や「相続」に関する手続きも必要

親子間継承を複雑にする最大の理由は、クリニックが親の「財産」という位置付けになっていることです。
さらに、保有財産の場合は土地・建物および医療機器等もその対象になります。
第三者継承の場合であれば、これらは全て売買で譲渡されますが、親子間継承は多くの場合「贈与」や「相続」といった形で行われます。
以下、それぞれの詳細や留意点について解説してまいります。

1.生前の親子間継承
親が生きている間(生前)にクリニックを子に継承する際は、売却や貸付ではなく「贈与」で行われるケースが殆どです。
そのメリットは主に以下のようなことが考えられます。

・継承・承継の時期を自由に選択できる
・ゆとりをもって準備や手続きを進められる
・継承・承継後も必要に応じて親が子をサポートしてあげられる etc…

一方で、生前贈与でクリニックを継承をする際の注意点は、「贈与税」の問題です。
申告するのは贈与を受けた側(子)ですので、親の税負担はありません。
子の負担を減らしたいという親心から、親が支払いを望むケースも見受けられますが、肩代わりすることで、その金額にも贈与税が課せられてしまうため注意しましょう。

2.相続による親子間継承
次に、親が亡くなってから子がクリニックを承継する場合は、「相続財産として事業を受け継ぐ」という扱いになります。
家業の相続事例はクリニックの継承に限らず多数ありますが、いざというときに揉めてしまうケースも多いため、事前の話し合いや準備が重要となります。

まずは事業用財産がスムーズに後継者となる子へ引き継がれるよう、遺言を残すなどの対策をしておきましょう。
ただし、承継後には相続税の発生や、遺留分制度により他の法定相続人に代償交付金を支払う必要が生じるケースもあります。
そのため、相続財産と見なされない死亡保険金などを上手く活用し、事業用財産だけではなく現金も承継する子の手元に残るように準備しておくと、より安心です。

いずれにしても兄弟や親族間の合意がない状態では承継が難航してしまう可能性が高いため、生前から家族で方針についてよく話し合い、場合によっては全てを文書として残しておくことをお薦めします。

■親子間継承をスムーズに進めるためのポイント

最後に、親子間継承をスムーズに進めるためのポイントについて解説します。

①子に承継の意思確認(引き継ぐ気はあるのか)を行っておく
ひと昔前までは、個人経営のクリニックは「家業」として子に継承することが当たり前と考えられていました。
しかし時代は変わり、昨今では「必ずしも家業を継ぐ必要はない」「子は子の人生を歩むべき」という考え方がむしろスタンダードになってきているようです。
子の立場で考えると、例え自分も親と同じ医師の道を歩んでいたとしても専門分野や医師として目指すところが異なれば、「ずっと勤務医を続けていたい」「自分で開業したい」と願うこともあるでしょう。

親が一方的に「きっと子が跡を継いでくれるはずだ」と期待していても、子の方は「元々継ぐ気はなかった」と、考えがすれ違うケースも少なくありません。
親子間継承の第一歩は双方の意思確認から始まります。
万が一、急な体調不良等で継承が必要になったときに困らないためにも、子に引き継ぐ意思があるのかどうかは、前もって確認しておきましょう。

②贈与税・相続税に関する検討・対策は早めに行う
前述にもあったように、親子間継承の難しさは、クリニックが「事業用財産」として扱われるところにあります。
生前贈与では贈与税、相続では相続税が課せられるため、早めに税金に関する検討・対策を始めておくのが良いでしょう。
例えば、クリニックの評価額が多額になる場合や、これから更に経営が伸びていきそうな場合、「相続時精算課税制度」を利用して税負担を抑えるという方法もあります。
この相続時精算課税制度は、2,500万円までであれば贈与税を納めずに贈与を受け、亡くなったときに贈与時の価格と他の相続財産を合算して一括で相続税を納められるという制度です。

税金対策は条件等によって必要な対策も異なるため、自身で対応することは大変難しい分野です。
ですので、税理士やクリニック継承の専門家と相談しながら、それぞれのクリニックに適した対策を考えていきましょう。

③資産・負債や経営状態の現状を共有する
売買で成立する第三者継承においては、クリニックの負債が後継者となる新院長に引き継がれることはありません。
一方、贈与や相続で行われる親子間継承では、負債も後継者が引き継がれるのが一般的です。
ですので、クリニックの資産と併せて未払い金や借入金等の負債についても情報共有しておく必要があります。
また、保証人や担保の変更といった手続きも発生します。

「負債があることを先に知っていたらクリニックを継がなかった!」というように、子が承継後に後悔するケースも少なくないため、資産・負債の実態と同じように経営状況についても予め共有しておきましょう。

④経営方針や診療理念について話し合う
第三者継承では、急激な変化による「患者離れ」を防ぎ、承継後すぐに円滑な運営を行えるよう、経営理念や診療方針について数カ月かけて細やかな引き継ぎを行うのが一般的です。

しかし親子間継承では、円滑な承継の為に行われるはずの引き継ぎが、むしろ悪い方向に働いてしまうといった話もしばしば聞かれます。
例えば、親子が2診体制で診療を行う方法で引き継ぎを行うといった場合、指示系統が2つになることでスタッフは長年の関係性から元院長(親)を優先しようとしがちです。
そうすると本来尊重されるべき新院長(子)は居心地が悪くなってしまい、せっかくクリニックを引き継ぎでも、子が出て行ってしまうといったケースもあるようです。
このように、親の意向が強すぎてしまうと関係がこじれやすいため、親子間では継承を機にスパッと思い切って子に全てをバトンタッチする方が案外うまくいきやすいといった傾向があります。

勿論、根幹となる理念や方針等については、親子間でよく話し合い、経営計画を策定しておくことが重要ではありますが、いざ引き継ぎが始まった時には、親は一歩引いて子を尊重し、アドバイスを求められたときに応じる程度の関わり方が理想的なのかもしれません。

■クリニックの継承(親子間・第三者)や閉院に関するご相談を承ります

いかがでしたでしょうか。
後編では親子間継承ならではの贈与や相続に関する手続きや親子間継承をスムーズに進めるためのポイントについて解説してまいりました。

クリニックの親子間継承は、第三者への医院継承と同等以上に複雑と言っても過言ではありません。
基本的な手続きに加えて、相続や贈与のこと、継承・承継後の関係性等にまで配慮する必要があるため、後々のトラブルを未然に防ぐためにも、是非クリニックの継承を専門に行う仲介業者等に相談しながら進めていくことをお薦めします。

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