クリニック継承の選択肢(前編)

 

今回の「クリニック継承の選択肢(前編)」では、継承の選択肢の一つである親族内継承について解説してまいります。

◆クリニック継承の背景・動向

冒頭でも述べた通り、最近ではクリニックが廃院にならぬよう第三者に医業を引き継ぐケースも珍しくありません。また、医師・看護師の人材不足も深刻化しており、多くの人材を持つ大規模な医療法人の傘下に入ることで人材不足を解消し、引き続き医療提供ができる体制を整えるという目的で継承を進めるケースもあるようです。さらには、医療制度の見直しやコロナ禍による来院数の減少などで経営が苦しくなり、資金力のある医療法人へ継承することで経営の安定化を図るといった意味をもつ事業継承も少なくありません。

◆クリニック継承の選択肢

まずは、クリニックを継承する場合の一般的な2つの選択肢について見てまいります。①親族内継承院長のご子息・ご息女、親戚などが医師の場合、親族内での継承が可能です。ひと昔前までは、この「親族内継承」が主流でしたが、昨今においては、後継者不在であったり、子が医師であっても勤務医を続け実家を継ぐ意思はないといったケースも増えてきているようです。②第三者継承(親族外継承)親族内に後継者が不在の場合や、親族内に医師がいたとしても継ぐ意思がない場合は、クリニックを第三者に譲渡することも可能です。これが所謂、「親族外継承(第三者継承)」と言われる方法です。現在クリニックに勤務されている副院長などを含めた周辺医師、後輩・知人医師はもちろん、医師会経由や仲介業者等に依頼して、まったく別の所から後継者候補を探すこともできます。

◆具体的な継承の流れ

本記事では、①「親族内継承」の場合の流れについて簡単にご紹介します。①打診・継承時期の決定まずは親族内に医師の方がおられる場合は、その方が跡を継ぐ意思があるのかどうかの確認を行って下さい。継承の意思が確認できたら、具体的な継承時期について話し合う必要があります。後継者の方は、現在勤務医の場合がほとんどかと思いますので、退職準備や手続きのスケジュールも念頭に置き、早い段階からしっかりと準備を進めていくことをお薦めします。②仲介会業者などへ相談継承について親族内での話し合いが終わったら、継承を専門とする仲介業者に相談されることをお薦めします。クリニック継承を行う際、例え親族内であったとしても、手続きや必要書類の準備などには専門知識が必要不可欠です。個人の力だけでは、院長ご自身にも後継者となられる親族の方にも大きな負担がかかってしまいます。手続きの不備や認識の相違などにより、継承後のトラブルに発展してしまうケースもしばしば見受けられます。③クリニックの財産・経営状況の把握仲介会社に依頼をすると、アドバイザリー契約を締結を行います。契約締結後、まずはクリニックが保有する財産の確認と経営状況の把握を行っていきます。後継者となるご親族はクリニックの現状を正しく把握し、万が一なにかしらの対処が必要な場合にはコンサルタントのアドバイスを受けながら改善策を講じる必要があります。④経営方針や診療内容を決める現院長と後継者となられるご親族の専門が異なる場合もあることでしょう。継承後の経営方針や診療内容について相談し、無理のない「継承計画」を練ることが大切です。ここでは、地域のニーズにマッチした診療内容を考慮することが重要ですので、地域医療を長年支えてきた院長先生の知見がきっと役に立つことだと思います。⑤継承計画の策定コンサルタントなどの助言を受けながら、本格的な継承計画を策定していきます。継承に向けた具体的なスケジュール、引き継ぎ内容、承継後のクリニックの開院日などについて決めていきます。また、このスケジュールに乗っ取って、現院長は廃止届を、後継者の新院長は開設届を提出するなどの行政手続も行いましょう。⑥院長から後継者への実際の引き継ぎを開始⑤で策定した継承計画に従って、院長から後継者の方に引き継ぎを行います。クリニックに勤務する看護師やスタッフ、通院されている患者様に院長交代について丁寧に説明を行うことが重要です。この引き継ぎを疎かにしてしまうと、院長交代後に看護師やスタッフの退職や患者様が離散してしまうなど、思わぬ事態に陥りかねません。そして親族内継承で一番難しいポイントがこの引き継ぎなのかもしれません。特にご子息やご息女に継承される親子間継承の場合では、つい親心から心配になり口出ししてしまうこともあるでしょう。しかし、主導権がずっと現院長のままでは、従業員の方も混乱し、患者様からも「ずっと院長先生に診てもらいたい」という声が出てしまうかもしれません。後継者となられるの方も勤務医として立派に活躍しておられる医師なのですから、クリニックの主導権はすっぱりと後継者の方に譲り、先輩医師として寛容に見守る気持ちで、サポート役に徹することが円満な引き継ぎを実現するための秘訣なのではないでしょうか。実際のところ引き継ぎはいつまでに行わなければならないといった決まりはありません。弊社がご支援した親子間継承の中では、継承から5年以上経った今でも親子二診体制で診療を継続されているクリニックもございます。

◆クリニックの閉院・譲渡に関するご相談を承っております

いかがでしたでしょうか。親族内継承を行う場合も、第三者継承(親族外継承)の場合と同様に様々な手続きが発生します。また、例え親族であってもトラブルはつきものです。継承後のトラブルを未然に防ぎ、万が一トラブルが起きた場合でも解決しやすくしておくためには、プロの仲介業者による事業譲渡契約書の作成などを行っておくことが重要となります。弊社では、引退(親族間継承、第三者継承、閉院準備など)に関する無料の個別相談を承っております。何か引退に際しての気掛かりごとがございましたら、是非お気軽にお問い合わせください。