個人経営の開業医が検討したい個人版事業承継税制とは

引退を考えた際、閉院や継承といった選択肢とは別に相続という観点でも考えていく必要があります。

今回は、個人経営のクリニックの場合に検討したい個人版事業承継税制の活用について解説していきます。

◆医院の相続における留意点と評価基準

開業医が医院を承継する際には、特に医院の土地、建物、医療設備、または医療法人を設立している場合の「出資持分」といった流動性の低い相続財産について注意が必要です。

これらの資産は相続税の課税対象となるため、適切な対策が求められます。

個人経営、すなわち医療法人を設立せずにクリニックなどを経営している場合、医院の土地や建物、医療設備などが個人の所有であることが一般的です。

この場合、これらの資産は個人資産として相続税の課税対象となります。

現金や預金はそのままの価額で評価されますが、それ以外の主な相続財産は以下の基準で評価されます。

土地:路線価または固定資産税評価額に基づき評価されます。
建物:固定資産税評価額に基づき評価されます。
医療設備:市場価値や減価償却累計額を考慮して評価されます。
出資持分(医療法人の場合):法人の純資産価額に基づいて評価されます。
医院の事業承継における個人版事業承継税制の活用
医院を親族に承継する場合、特に個人の開業医にとって、「個人版事業承継税制」の活用が効果的です。この税制を利用することで、医院の土地、建物、医療用設備が相続税の課税対象となる場合に対する対策が可能となります。

 

◆個人版事業承継税制とは?

個人版事業承継税制は、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく税制の特例です。
個人事業主(開業医を含む)が後継者に事業を承継する際、一定の要件を満たすことで、「特定事業用資産」にかかる相続税の納税が猶予されます(免除ではありません)。

詳細については国税庁のWebサイトを参照してください。

国税庁Webサイト: No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4153.htm

 

◆特定事業用資産とは?

特定事業用資産とは、相続税の納税猶予が適用される対象となる資産のことです。以下に、具体的な資産の例を挙げます。

土地:医院の事業運営に使用されている土地。例として、医院の敷地や駐車場などが含まれます。
建物:医院として使用されている建物。診療所の建物や付属する倉庫、ガレージなどが該当します。
医療用設備:医院の診療に必要な医療機器や設備。具体的には、X線装置、超音波診断装置、内視鏡、診察台、手術台、その他の医療機器が含まれます。
什器備品:診療に必要な家具や備品。待合室の椅子、受付カウンター、書類棚、コンピュータやIT機器などが該当します。
これらの資産が「特定事業用資産」として認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。

資産が事業の用に供されていること。
資産が相続開始時において、事業主が所有していること。
後継者が事業を継続し、資産を事業のために使用すること。

◆個人版事業承継税制の注意点

個人版事業承継税制を利用する際には、以下の注意点があります。この制度は事業を継続し、特定事業用資産を保有する限り納税の猶予が続きますが、事業を廃止する場合や他の特定の状況が発生した場合、猶予された相続税の全部または一部の納税義務が生じます。ただし、後継者が死亡したり、病気などにより事業の継続が困難な場合には、猶予された相続税が免除されることがあります。

◆親族が医業の事業承継をしない場合の対策

また、昨今では子供が親のクリニックを継がないケースが増加しています。
医院を承継する後継者がいない場合には、主に以下の2つの方法があります。・廃院し、医院の資産を処分・換金する
・第三者継承により、医院の事業を「箱」ごと売却・譲渡するどちらの方法が適しているかは、医院の状況によります。多くの患者を抱えていたり、優秀なスタッフ(医師、看護師)を有する場合は、比較的候補者が見つかりやすい一方、エリアや科目によっては対象となるドクター自体が少ないため、難航する場合があります。
また、個人事業の医院の場合、行政による開院許可を譲渡することはできません。そのため、行政手続き上、一度廃院し、再び同じ場所で別の開業医が開院するという複雑な手続きを経る必要があるといった点にも注意が必要です。

制度利用の検討も含め、早めの備えが重要

医院の事業承継は複雑で多くの課題を伴います。特に、医院の土地、建物、医療設備、出資持分などの流動性の低い資産に対する相続税の対策は重要です。
個人版事業承継税制を活用することで、特定事業用資産に対する相続税の納税猶予を受けることができますが、その利用には条件があり、注意が必要です。
また、後継者がいない場合、継ぐ意思がない場合に備え、第三者継承もサブプランとして検討しておくことが重要です。
弊社では、引退(親族間継承、第三者継承、閉院準備など)に関する無料の個別相談を承っております。
引退に際しての気掛かりごと等がございましたら、是非お気軽にお問い合わせください。