クリニック第三者継承 成約事例インタビュー『札幌メンタルクリニック』後編
時代と共に移り変わる精神科医療 互いの尊重と信頼で生まれた医業継承の理想像
患者様とかかりつけ医の信頼関係が重要となる精神科医療。札幌メンタルクリニック・岡田前院長が培ってこられた代替しがたい医療資源とも言える患者様との信頼関係は、安藤晴光新院長によって引き継がれている。今回はお二人の精神科医療への向き合い方と、第三者継承の所感を伺った。
精神科医療に対する多角的な視点でのアプローチ
−−−安藤先生の場合、これまでの臨床で経験された外科、内科など他の診療科の視点での精神疾患の評価などもできるのではないですか。
(安藤先生)いまの人には、神経系も含めて、多角的な評価や治療のアプローチは有効ではないかと思っています。私自身がそうやって学んできたなかで、いまに至っていますから。
(岡田先生)「分子整合栄養学」を創設した三石巌先生は、要するにいまの医者たちの医療は間違っていると著書のなかで書かれているんですね。この三石理論に入れ込んでいるのが安藤先生です。
(安藤先生)重症の糖尿病にかかっていた物理学者の三石先生が、ご自身を実験台にしながら100歳まで生きてみせると独学で導いたのが「分子整合栄養学」です。人間の体を医学者ではない視点でとらえています。いまの医療は基本的に対症療法にならざるを得ません。患者さんの症状を医学的に診断し、治療を選択するのに対して、「分子整合栄養学」は人の体は元々何からできているのかという真逆の視点からアプローチしています。両方やってみてもいいのではないかと思っています。
(岡田先生)そう。だから安藤先生が三石理論に基づいて行っていこうとする精神科医療の発展が楽しみだし、私は大いに期待したいと思っています。
−−−医療におけるコンプライアンスからアドヒアランスへの流れのなかで、とくに主治医に依拠しがちな精神科医療では、患者さんが自分の意思で治療に積極的にかかわることが重要だと思われます。安藤先生はどうお考えですか。
(安藤先生)患者さんもいろいろで、何もわからないという初診患者から、何十年も医療機関を変えて通院し、自分のやって欲しい医療を求める人もいます。私がこの治療法がいいかなと思っても、患者さんの訴えに応じて柔軟性をもって決めるようにしています。一方通行の治療の押し売りが決して喜ばれないことも経験してきました。
−−−常に保持することで安心感を得たいのか、向精神薬の処方だけを求められる患者も少なからずいると思われますが、そういった方にどういう対応をされていますか。
大事なのは、患者さんが求める根本が何かですね。気分よく仕事ができて本人の満足度が高く、副作用がなければ制限の範囲内で処方しますし、薬を減らしたいのだけど抜けられないという悩みもあります。方法はいろいろとあるわけですが、まず受診の目的を知ることが大事だと思っています。
(岡田先生)かつての精神科医療は、患者さんの求めに応じて、向精神薬を大量に処方してきました。内科医でNPO薬害研究センターの理事長を務める内海聡先生が著書「精神科は今日も、やりたい放題」などのなかで精神科の薬物療法を批判してきましたが、近年、厚労省も規制している通り、多剤処方で症状を抑え込むような時代は終わりました。私は精神科医療の過渡期に大学から病院に出張していて、興奮する統合失調症患者さんをベッドに並べて、無麻酔で次々とECTをやってきました。そんな時代だったわけです。いまは全身麻酔下で行うMECTになりましたが、当時は気道確保や痙攣を抑えるなど、麻酔はかえって危険で、すごい手間がかかったのです。
−−−抑うつ症状で受診される患者さんの1~2割が、後に双極性障害の診断に変わるとされるデータがありますが、処方薬も違うだけに医師としての見極めは大事ですよね。
そこは経過を見ながら処方をコントロールするしかありません。確かに2型の双極性障害は少なくはありませんし、まれに慢性の躁状態だってあります。もちろんその場合は、ご家族が連れて来るわけですが。統合失調症だって、その原因はいまだにわかっていないのです。文豪、夏目漱石だって統合失調症で3回も入院し、小説家として大成したわけでしょ。芥川龍之介もそうだったといわれています。つまり、頼れる主治医が患者さんにどう寄り添うかということが精神科医療なのです。
−−−当院で統合失調症患者さんも診るのですか。
結構いますよ。いまの入院医療での薬物療法では不完全で妄想や幻聴は絶対に取れません。そこは病院もクリニックも一緒です。最初はうつ症状で来院し、少し躁状態になって双極性かなと思っているうちに幻聴が現れてくる。そうなると統合失調症感情障害となるわけです。結構いらっしゃいます。初診で見抜けない以上、クリニックとしても慎重に処方を調整しながら経過を見ていくしかないのです。
−−−多職種・多機能が密に連携して精神科地域ケアと早期社会復帰を目指す多機能型精神科診療所も少しずつ増えつつありますが、当院の将来的な機能でそのようなお考えはありませんか。
(安藤先生)少し考えたこともありましたが、当面は現状維持で十分という感じです。というよりも、岡田先生を慕って来られる患者さんが多いので、対応しきれないという側面もあります。
(岡田先生)札幌市内にも就労継続支援事業所がいくつかありますし、利用者も数多くおられるようです。このビルの3FにもA型、B型の作業所があります。当院での通院は関係なく、事業者から連絡を受けて書類を作成することも結構あります。
事業承継でつながれた担当コンサルタントとの信頼関係
最後の質問になりますが、今回事業承継のマッチングとコンサルティングサービスを担当させていただいた、メディカルトリビューンと日本医業総研の支援についてのご感想をお聞かせください。
(岡田先生)私、いまでもよく分かっていないのですが、メディカルトリビューンと日本医業総研はどう役割を分担されているんですかね。
(渡辺/メディカルトリビューン)日本医業総研には開業・継承支援も含めたコンサルティングの実績があり、メディカルトリビューンは発行する新聞の読者とともに、事業承継元・先ともに数多くの候補者がおりますので、そのマッチングを担当しております。
−−−安藤先生はどんな印象を持たれましたか。
(安藤先生)初めての経験でしたが、電話やweb面談も丁寧な対応でしたし、実際に何度も足を運んでいだたき、書面に書かれている以外にもさまざまな情報を提供していただけました。
(岡田先生)渡辺さんからは多くの承継候補者を紹介いただきましたが、それ以前に私の体調や職員の問題など、本当にピンチを救っていただきました。
(渡辺/メディカルトリビューン)岡田先生からご自身の体調のことなどすべてお話いただけたので、仕事を離れてでも先生のためになんとかお役に立ちたいという気持ちでやってきました。引き継ぎ候補者も複数名ご紹介させていただきましたが、それ以外のどんなに細かい相談でもメールなどは使わずに何度となく直接お伺いさせていただき、関係性を深めていただけたと思っています。安藤先生を紹介させていただいたときは是非にと強く要望され、そのままに安藤先生も承継の意思を固められたのではないかと思っています。
−−−植村さんの立場から今回の事業承継の成功をどのように見ておられますか。
(植村/日本医業総研)これまでいろいろな事業承継をサポートさせていただきましたが、岡田先生から安藤先生に引き継がれるのは、双方、そして地域にとってもベストな選択だったと思っています。岡田先生が波乱万丈さながらにクリニックをやってこられ、当院は地域に不可欠な医療資源となりました。とくにメンタルクリニックの信用は他院では代替が利きません。その院長が引退されるというのは大変なことなのです。後継者の安藤先生は札幌メンタルクリニックがこれまで行ってきた医療と、岡田先生の人格、思いのすべてを尊重し、無条件で受け入れてくれました。それがあってほしいと願う姿なのです。今回、事業承継の理想像を担当させていただいたという思いです。
−−−ところで最近岡田先生は「精神分裂症の謎」以来、25年ぶりに単行本を上梓されたと聞きましたが、院長退任後のライフワークは作家活動でしょうか。
(岡田先生)作家の才能はないので、評論家になろうと思って、文芸社から『失われた時1940-2022年を求めて』を発刊しました。一般の書店には並んでなくてAmazonなどのネット書店で広く扱っているようです。まだレビューもないので売れているかどうかはまではわかりませんが(笑)。
−−−先では早速当社で一冊購入し、最初のレビューを書かせていただきます!
(文責 日本医業総研 広報室)
◆Clinic Data
医療法人社団 ほほえみ会
札幌メンタルクリニック
・診療科
精神科 神経科 心療内科
・所在地
北海道札幌市東区北12条東7丁目1 ワコービル5F
・クリニックホームページ
https://www.sapporo-mental.com/
■ご相談やサービス案内資料の送付は無料で承っております
メディカルトリビューンでは、これまで地域医療に貢献してこられた開業医の先生方の豊かなリタイアメントライフを実現するご支援をさせていただいております。
継承支援サービスの案内資料や継承事例のご紹介など、郵送は無料で承っておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。