クリニック第三者継承 成約事例インタビュー『はねだ内科』後編

専門医から、プライマリケア医へ―縁によって紡がれたクリニック承継の理想像

新理事長・院長 工藤俊彦 先生

2001年、札幌駅からほど近い発寒中央駅前に開設されたはねだ内科クリニックは、かかりつけ医の祖として地域の健康を支え、20年以上を経た今も多くの来院がある。羽田均前院長から地域医療のバトンを受け継いだのは、同じ北海道大学医学部種子インで消化器内科を専門とする工藤俊彦新院長だ。
後編ではクリニックを承継した工藤新院長に、開業に至った経緯や思い、今回の第三者継承に関する所感を伺った。

医師の原点は「ブラックジャック」!?

ーーでは、工藤俊彦新院長に話をうかがいます。消化器内科に進まれた理由からお聞かせください。

(工藤俊彦新院長)小学生のころ、手塚治虫氏の漫画「ブラックジャック」に夢中になり、漠然とした医者像ではなく、外科一択で医師を目指しました。大学に入ってもその動機は変わらなかったのですが、消化器医療は内視鏡によるアプローチへの移行が主流になる時代で、胃がんでも大腸がんでも、内視鏡を使った切除が可能になりました。少ない負担で臓器を温存できるのであれば患者さんの苦痛は大幅に軽減されます。外科への興味を内視鏡の手技向上に向け、対話から患者さんとの信頼関係を築いていく内科へと方向転換しました。

ーー消化器医療において内科医が内視鏡を自在に扱うようになり、患者さんにとっては受診のハードルが下がりましたね。

ポリープが見つかれば外科に回して切っていたような時代からすると内視鏡は画期的です。もちろん、リンパ節へのがん転移など内視鏡治療に適さないケースにおいて外科の高度な医療は欠かせませんが、内科で対応可能な領域が広がったことは魅力的でした。

ーー2002年から米国に留学されたのですね。

ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズムの研究で行かせていただきました。日中はベイラー医科大学の消化器内科教室での臨床講座で学び、夜はピロリ菌を与えた研究用のマウスの胃の中を観察するという、ひらすら臨床と研究だけに明け暮れた2年間でした。

ーー研究の環境は、日本と米国ではやはり違いましたか。

私が留学した20年前はまったく違いました。研究にかける予算や施設の規模もそうでしたが、大学の横にテキサス大学MDアンダーソンがんセンターがありましたので、世界的に有名な臨床医、研究者に相談をしやすい環境も整っていて、充実した学びを実感できました。

重症者の紹介を受ける専門医から、プライマリケア医への転身

ーー大学病院を中心に、臨床だけでなく教育者としても第一線で活躍されていた工藤先生が、一転して2021年に「工藤内科クリニック」の副院長になられたのは、ご自身の開業を意識されてのことでしょうか。

開業を考えていたわけではありません。当時、教官を務めていた大学にずっと勤めるものだと思っていたのですが、親族が経営する工藤内科クリニックを手伝うこととなり、思い切って大学を辞めて副院長として勤務することになったのです。

ーーずいぶんと思い切った決断でしたね。

そういうわけでもなく、実は一般の内科クリニックにも興味があったのです。大学病院にせよ市中の基幹病院にせよ、専門性の高さを武器に紹介患者さんを受け入れて治療し、また紹介元にお返しするという、ある意味で望ましい病診連携を続けてきたのですが、私自身は重症化する前の段階から患者さんと接して、早期に病気を見つけてあげたいという思いが強くなっていました。

前院長の想いを受け止め未来につなぐ

ーーそこから今回の承継開業となったわけですが、新規開業との比較検討はされなかったのですか。

新規開業への強いこだわりはありませんでした。ただ、医局にあったメディカルトリビューン紙は読んでいて、DMも受け取り、同社のウェブサイトを見て事業承継という開業形態が活性化していることを知りました。

ーーそこで旧知の羽田先生の承継情報に出会ったということですね。

先ほど羽田先生も話されていましたが、私は二十数年前に羽田先生を送り出した立場でした。病院との患者さんのやりとりもあったので、羽田先生がこの場所で開業され、盛業されていることも承知しておりましたが、まさか承継の話が私のところに来るとは夢にも思っていませんでした。ご縁というより、ありがたいこととしてお引き受けしました。

ーー院長になられましたが、まだ強みの内視鏡は実施されていないのですね。

あくまでも承継開業ですから、私の役割は羽田先生の想いをすべて受け止め、未来につなぐことだと思っています。まずは、患者さんと現場スタッフに、これまで通りに満足していただけるかが一番大事なことです。上部内視鏡の機器は揃っていますので、いつでも始められるのですが、やるからには下部にも対応し、より多くのニーズに応えられたらと思っています。

ーー現在非常勤で羽田先生にも診察に加わっていただいているわけですが、引継ぎも含め羽田先生のスタイルに学ぶ点はありますか。

大いにあります。羽田先生はご謙遜されていますが、23年やってこられて、いまでも多くの来院者がおられます。その一人ひとりに短時間で的確な説明をされているのは、成功開業医ならではの卓越した技術だと思っています。患者さんも安心して帰られます。そこは、長い時間をかけて培われたものなのでしょうが、簡単に真似のできることではありません。横や後ろに立って羽田スタイルを拝見するたびに学ぶことだらけです。

ーーあらためて、羽田前院長の方針を踏襲し、どう工藤院長による「はねだ内科」を作ろうとお考えですか。

当院は内科クリニックであるということが大前提です。羽田先生は呼吸器を専門としながらも、高齢者が多いだけに常に他の合併症にも目を配ってこられました。生活習慣病を診ることは、一人の人間としてどう患者さんと向き合うのかということなのです。私が新しいスタイルを作るというより、羽田先生から学んだ全人的に人を診るということを私なりに深化させたいし、その方針だけは絶対に変えないつもりでいます。

左から)加藤(日本医業総研)、植村(日本医業総研)、羽田前院長、工藤新院長、渡辺(メディカルトリビューン)

ーー今回の事業承継における、メディカルトリビューンと当社日本医業総研のサービスについて、忌憚のないご意見をお願いいたします。

(羽田先生)メディカルトリビューンの渡辺さんには、とにかく仕事の早い方だという印象ですね。日本医業総研の植村さんは、医業コンサルの実績値が高いだけに専門的な知識が豊富で、電話での質問にも的確なアドバイスをいただきました。このお二人に担当いただき、当初予定を前倒しする形で、順調に進んだのではないかと思っています。
(工藤先生)事業承継など私には当然初めての経験でしたが、メディカルトリビューンの渡辺さん、日本医業総研の植村さんの仕事には安心感がありました。承継契約後は日本医業総研の加藤さんにも加わっていただきましたが、私がクリニックで医療をしている裏側で、煩雑な手続きを一つひとつ丁寧に着実に進めてもらいました。皆さんには、本当に助けられたと思っています。

ーーありがとうございます。では今回の事業承継の担当コンサルタントからも話を聞きたいと思います。まず、メディカルトリビューンの渡辺さんからお願いします。

(渡辺/メディカルトリビューン)最初に羽田先生から相談をいただき面談させていただきましたが、非常に実直な方だという印象と、クリニック自体も盛業されていましたので、かなりの緊張感をもって対応させていただきました。仕事が早いと評価していただきましたが、最初の資料作成などにおいて、思っていたより早く、しかもキッチリと準備していただいたのは羽田先生の方で、私はそのスピード感に乗っかったようなイメージなのですが、短期間で最適なマッチングができたことを嬉しく思います。私自身、これまでにいろいろなクリニックを訪問させていただいてきましが、成功されているクリニックの共通点は、院長の地域を思う人間性なのです。工藤先生の資質でもあるのでしょうが、今回の承継がうまくいったのは収益事業としての医業だけでなく、両先生が互いの人間性をリスペクトした結果なのだろうと思っています。クリニックの事業承継には、決算書の数値だけでは計りえない価値が確実にあるということです。

ーー加藤さんはいかがですか。

(加藤/日本医業総研)私は承継合意後からの参加で、金融機関との折衝や行政手続きなどを担当させていただきましたが、羽田、工藤両先生の意思に一寸のブレもなかっただけに、スケジュール管理も含めスムーズな流れで進めさせていただくことができました。意思決定にブレることなくおまかせいただいた両先生には感謝しかありません。

ーー植村さん、本日両先生の話を改めてうかがっての意見をお聞かせください。

(植村/日本医業総研)工藤先生にクリニックを引き継いでいただき、羽田先生も安心されていることをお聞きし、ようやく仕事を完遂できたという思いです。今回の承継での初回のトップ会談で印象的だったのが、開業医と勤務医という異なる立場にいながら、両先生とも相手に対する畏敬の念をもって接せられていたということです。その姿勢は最後まで何ら変わることはありませんでした。クリニック事業承継がうまく進むことの一番大切なことは互いを認め合う姿勢なのだということを、改めて実感しましたし、私自身の学びでもありました。先ほど院内の掲示板に「従業員は一人も変わっていませんのでご安心ください」という手作りの張り紙を見つけました。これがサービス業としてのクリニック承継のあるべき姿なのだと思いましたし、ある種の感動を覚えました。羽田先生の意志が工藤先生に確実に継がれた行動の一端なのだと思います。クリニックの事業承継にはさまざまな個別の事情が交差するものですが、「はねだ内科クリニック」の承継はその理想形に近いものとなりました。

(文責 日本医業総研 広報室)

◆Clinic Data

医療法人社団 はねだ内科クリニック

診療科:内科
所在地:〒065-0012 北海道札幌市西区発寒6条2-10
クリニックホームページ:https://haneda.or.jp/

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