クリニック第三者継承 成約事例インタビュー『林産婦人科』後編
継嗣三代、100年余地域産婦人科医療を支えてきた軌跡と信頼は、第三者承継によって確かにつながれ、着実な一歩を踏み出した

「林産婦人科」の開設は大正7年にまで遡る。親子三代にわたり生命の誕生と感動を見続け、地域産婦人科の代名詞といえる位地を築き上げてきた。2024年4月、第三者事業承継によって当院4代目院長に就任したのは、藤井治子医師だ。大学と関連病院で研鑽し、京都府の威明轟く産婦人科「ハシイ産婦人科」で17年間勤務した後に承継開業を決意。当院近隣のマンションに移り住み不休の診療を行っている。
現状維持ではなく、時代に沿った進化
−−−林正人前院長との最初の面談では、どのような印象を受けましたか。
(藤井治子院長)林先生については、予断を持たず2~3の質問だけを用意してお会いしました。「スタッフ教育では何を大切にされてきたのですか」とお尋ねしたところ、「“待つ”ことを大切に」というお答えでした。患者さんに対して大事にすべきこと、の問いには、「とにかく、優しくして欲しい」。お答えをいただいたのは「待つ」「優しく」という、この2つだけです。林先生は多くを語られませんでした。 初対面の私に対して聞きたいことが沢山おありだろうと思うのですが、何も仰いませんでした。おそらく林先生は様々な思いを懐深く受け止め、30年余のクリニック経営と地域産婦人科医療を守ってこられたのでしょう。穏やかな表情のまま仰った2つの言葉にとても感動しましたし、その瞬間に気持ちがスーッと林産婦人科に溶け込みました。
――承継に対するプレッシャーはありませんでしたか。
三代引き継がれた施設で、お産の実績も地域で最も多い。院長は人格者でスタッフからの信頼も厚い。地域外から急に来た私に、そのような医院をお預かりすることが本当にできるのだろうか、と思う部分はありました。
――事業承継で院長が交代することに、スタッフの反応はいかがでしたか。
林先生がスタッフに事業承継の発表をされたのが、契約の直前だったようで、2日後に私が挨拶に出向いた段階では、やや戸惑いがあったように感じられました。その後、承継の1週間前からスタッフの個別面談を実施しました。事前に私からの質問用紙をお配りし、各自まとめていただいた考えを基にコミュニケーションを図ったのです。
――リニューアルされたホームページに掲載された経営理念、「愛、誠実、貢献、成長、楽しむ」がとても印象的でした。これは地域に向けたメッセージであると同時に、スタッフに期待する行動の指針でもあるわけですね。
経営理念というより、私自身の「人生理念」でしょうか。私がこうありたいと考えることは、医院のあり方に直接つながりますし、私の発する言葉は、スタッフの意識にも響くものだと思っています。古き良き風習を残しつつも、今の時代に即した新しい医療を少しずつ取り入れていくことも必要です。事業承継はいままでできていなかったことを掘り起こすいい機会だと、スタッフ皆に感じ取って欲しいのです。例えていえば「芋堀り」のようなもので、1個出てきたら嬉しいものじゃないですか。さらに芋づるを手繰るともっと大きな芋が出てくる。そこにも、あそこにも。そこに、医院を良くするきっかけが見つかるはずです。その宝探しを皆さんに楽しんでいただけたらと思うし私も楽しむつもりです。

「不妊」から「妊活」、そして「産活」へ
――現在、外来でお越しになる方の、お産にかかわる方と、その他の婦人科疾患の方はどんな割合でしょうか。
産科のイメージが定着していることもあってか、外来では概ね8割が妊婦健診ですね。 これまで思春期から更年期までいろいろな悩みに対応してきた私としては、婦人科の割合が半分くらいあって欲しいなと思っています。広報活動も含め、そこは改良すべき課題の1つですね。
――かつて先生が専門とされてきた、婦人科腫瘍なども含めてということですか。
そうです。がん検診のほか乳腺エコーも導入して乳がん検診の枠を作ったり、ホルモン療法や漢方療法なども取り入れたいですね。一次予防として、栄養療法外来を設け、女性の健康度を高めていくことにもお役に立ちたいという気持ちでいます。
栄養療法外来というのは、栄養士による食事アドバイスではなく、藤井先生ご自身が医療として栄養療法を行うということですか。
もちろん、すべて私が行います。分子栄養療法といって、細胞のなかの機能改善を行うこと、機能性医学やオーソモレキュラーなどとも呼ばれますが、産科診療に用いたり、女性の月経痛、PMS、更年期障害などの機能的なトラブルにも対応可能な分野だと思っています。
―「妊活外来」についてお聞かせください。
「不妊」ではなく「妊活」。病気の治療という志向ではなく、より妊娠しやすくするという視点を大事にしたいと思っています。言い換えれば、「予防焦点」ではなく ポジティブな目標を目指す「促進焦点」ですね。不妊という言葉は、それだけで気持ちが下がるイメージがあって以前から気になっていたのです。いまでは「妊活」の言葉も広まって、外来で患者さんから普通に妊活したいと言われるようになりましたし、さらに「産む力」を高める取り組みを私は「産活」とも呼んでいます。
24時間体制のためには本当は病院に住みたい!?
―まだ引き継ぎの最中だと思われますが、林前院長の診療スタイルから学ぶことはありますか。
もう、メチャクチャ学ぶことだらけです! 最初に林先生が仰られた「待つ」「優しく」が具現化されたような本当に繊細で丁寧な診療をされています。すべてが患者さん本位の運営で、24時間患者さんの都合に合わせて動ける体制を自ら実践されています。そういうところから安心感・信頼感が生まれてくるのでしょう。
-改めてうかがいますが、医業を承継されて、林前院長のなにを踏襲し、新たにどの部分で藤井先生らしさを表現していこうとお考えですか。
こんな性格なので、私らしさを押し隠すことはきっとできません(笑)。
-確かにそんな気がします(笑)。
院長を拝命しても、まだ名ばかりで、林先生が築かれた医療基盤の上にチョコンと乗っかって、医療安全に心掛け、これまでと同様の医療提供ができるようになるまでにはもう少し時間がかかるだろうと思っています。それが馴染んだころには本当に守るべき大事なことが見えてくるし、馴染みながら徐々に私の診療スタイルも滲み出てくるでしょう。そうなると、スタッフにも変化が起こるし、逆に私のことも変えてくださるのではないか、それらが混じり合って新しい林産婦人科になっていくのではないでしょうか。焦ることなく、林先生のなさってこられた医療を尊重し大事にしていきたいと思っています。
-開業医になられて、私生活に大きな変化はありますか。
毎日24時間仕事です! 前職のハシイ産婦人科は医師5人体制でしたから当直日以外は気を抜くこともできたのですが、ここでは毎日が当直のようなものです。林先生ご自身がそうだったのです。医院の隅々にまで目が行き届き、お一人ですべての状況を把握され、夜中であっても軽いフットワークで診療に戻られてましたから、スタッフも私にそれを期待しています。元々、仕事どっぷりの生活は嫌いではないので、健康に留意しながら医院拠点の生活をしていきたいと思っています。
(猪川)京都のお住まいからこちらに引っ越されるとき、たしか病棟に空きベッドがあったら、そこに住みたいと仰ってましたね。
(藤井治子院長)いまでもそうです。最初に施設の見学に来たときに建物を見上げて、「林先生、屋上に家が建ちますかね?」と真面目に聞いたのです(笑)。先生は「えっ!」と絶句し、かなり引いておられましたけど。結局賃貸マンションを借りたのですが、少し離れているので、できることなら早く医院に引っ越したいです。
承継医師はどこかでつながれている

-今回の承継開業では、マッチングと承継実務を日本医業総研の猪川とメディカルトリビューンの中西俊幸氏で担当させていただきました。私どものサービスについて忌憚のないご意見をお願いいたします。
(藤井治子院長)コンサルタントに何をどこまで期待するのか明確な尺度があったわけではないのですが、猪川さんと中西さん、お二人のおかげで今があると思っています。私が素朴なことで悩み相談しても、いつでも優しく受け止め丁寧に対応していただきました。これからも、何かの折にご相談したいという思いでいっぱいです。
-メディカルトリビューンの中西さんは今回の承継を振り返ってみていかがですか。
(中西俊幸/メディカルトリビューン)林前院長はすでに2年ほど前から承継を検討され、私どもがご相談を受ける前から複数の仲介業者がかかわっていたのですが、その担当者の対応がことごとくダメだったという経緯があったようです。契約間際まで話が進んだ候補者もいたようですが、頓挫したようです。そこで大手医薬品卸業者からの紹介を受けた私が呼ばれ、ひとまず合格判定をいただいたのです。
(藤井治子院長)そんなことがあったのですか!?
(猪川/日本医業総研)今回の林産婦人科承継のスタートは中西さんだったんです。当初、林産婦人科の顧問弁護士や税理士との交渉窓口に立ったのも中西さんです。
(中西)士業の方々にはそれぞれプロの視点や役割があるわけですが、私どもも長年事業承継に携わり成功に導いてきたプライドを持って取り組んでいます。どちらが優位に立つのかではなく、地域と林産婦人科にとってもっとも望ましい選択を、双方が良い形で提案できれば、必ず理解し合えると思っていました。
(藤井治子院長)私がお会いしに行ったときは、すでに弁護士さんたちを交えた下準備ができていたのですね。
(猪川)そういうことですね。あのときの面談を機に話が具体的に進みましたね。
(中西)「藤井先生なら間違いない」と林先生を始め弁護士からも認めていただき「いい先生をご紹介いただいた」と仰っていただきました。
(猪川)契約書等の作成では、弁護士から文言一つひとつに細やかな指摘が入りましたが、厳しいというより、106年続く林産婦人科を守らなければならないという使命感のようなものがヒシヒシと感じられました。メールのやり取りだけでも夜10時、11時という日が続きました。それだけに12月24日のクリスマスイブに、この部屋で契約を締結し、藤井先生にご用意いただいたシャンパンで乾杯したときは感動しましたし、同席されていた弁護士も本当に喜んでおられましたね。
-皆さんの話を聞いているだけで、それぞれの方がそれぞれの立場で、今回の事業承継成功に向けて真剣に取り組まれたことがわかります。
(猪川)今回は私と中西さん、林前院長サイドに顧問税理士と弁護士、藤井先生にもハシイ産婦人科の顧問税理士と総事務長、私どもにも弁護士がいるわけですが、我々の立場は話をより良い方向にまとめるだけで、何ら意思決定はできません。三代引き継がれた林産婦人科と地域産婦人科医療を絶やしてはならないという林前院長、その意志を受け止めて立ち上がった藤井先生が手を結ばれた結果なのです。藤井先生とは昨年の7月に最初の相談をいただき、林産婦人科を紹介させていただいたのが9月、契約が12月ですから、結果として最短時間で最高の承継がかないました。マッチングのタイミングというのは確かにあるものです。でも、日本に34万人もの医師がいながら、極めて少ない確率論のなかで承継がまとまることは、偶然なのではなく、必然だったのではないかと思えてならないのです。目に見えない医師のつながりのような世界観なのかもしれません。
(藤井治子院長)前前世あたりからつながっているのかもしれませんね、きっと。
(文責 日本医業総研 広報室)
◆Clinic Data

医療法人社団 林産婦人科
診療科:産科 婦人科
所在地:〒654-0052 兵庫県神戸市須磨区行幸町4-2-7
クリニックホームページ:https://hayashi-clinic.or.jp//
■ご相談やサービス案内資料の送付は無料で承っております
メディカルトリビューンでは、これまで地域医療に貢献してこられた開業医の先生方の豊かなリタイアメントライフを実現するご支援をさせていただいております。
継承支援サービスの案内資料や継承事例のご紹介など、郵送は無料で承っておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。