第三者継承でスタッフはどうなる?

◆運営形態によりクリニック継承時の引継ぎ対象は異なってくる

クリニックの継承においては、被承継医院が個人医院であるか、医療法人であるかによって、手続きが大きく変わります。

医療法人のM&Aは、旧法の出資持分のある経過措置型医療法人では、クリニックの土地建物や内装、医療機器等の資産だけでなく、負債(借入金やリース債務など)、医療機器の保守契約、建物の賃貸借契約、従業員との雇用契約、カルテ情報なども包括的に引き継ぎます。

それに対し、個人医院から個人医師への譲渡では事業譲渡契約となり、事業承継といっても、手続き上は現医院を廃止し新たに承継後の院長が医院を開設するという扱いになります。

また、個人医院から医療法人への譲渡では医療法人の分院として開設届を出します。


どちらの場合でも、承継されるのはクリニックの建物・設備・医療機器などの事業に属する有形資産になり、院長個人の負債や医療機器の個別契約、患者カルテ、スタッフの雇用契約は原則引き継がないということになります。

しかし、一般的には円滑な医院経営の引き継ぎと地域医療を維持するため、患者カルテを「のれん(資産)」として引き継ぎ、承継後の医院とスタッフが新たに雇用契約を結ぶことを条件とする場合が多いのが実情です。

よって、個人立のクリニック継承でスタッフの雇用継続を考える場合は、譲渡契約の際に譲渡内容を細かく取り決める・スタッフ一人一人と引継ぎ先の先生との面談の場を用意する必要があります。

*1 参考:厚生労働省「平成 30(2018)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 P27統計表1
*2 参考:日医総研「日医総研ワーキングペーパー 2019年1月8日」帝国データバンク「後継者問題に関する企業の実態調査(2017 年 11 月 28 日)
*2 参考:日医総研「医療承継に関する実態調査 2019年12月24日」

◆承継する先生がスタッフを継続雇用させるメリット

クリニックの事業承継においては、他の中小企業の事業承継と同様に、スタッフと顧客(患者)を引き継ぐことで、既に地域で事業基盤を築いている事業を継続できるメリットがあります。

診療科によっても異なりますが、一般的にクリニックは地域密着のため、地元の患者、スタッフを雇用し、地域の医療機関・介護施設・在宅サービス事業所等との連携を図っています。
患者の信頼を得ているスタッフを維持することで、承継後も患者の離反を防ぐことができます。

地域の連携先や地元商店街、取引先情報に詳しいスタッフを引き継げるので、承継後も円滑に業務を継続することができ、短期間でクリニック経営を安定化させることができます。

◆スタッフが継続雇用されないケースとは?

事業承継時にスタッフが継続雇用されないケースは二通り考えられます。

事業承継時の継続雇用に関しては、できるだけ同じ労働条件での継続雇用が望ましいのですが、必ずしも承継側やスタッフの双方にとって、長期的にふさわしい労働条件でない場合もあります。

そのため、改めて承継後の理想の労働条件を整備することが必要です。
特に医療法人に引き継ぐ場合は、承継側の労働条件に合わせて調整することになるので注意が必要です。

(1)スタッフから退職を申し出る場合

現院長と長く一緒に働いてきたスタッフの中には、院長のリタイアと一緒に退職したいとか、これを機会に他の仕事をしたいなど、個人的な事情で継続雇用を望まない人もいます。
事業承継が本決まりになる段階でひとりずつスタッフの意思を確認すると良いでしょう。
この場合、引き継ぎの準備として他のスタッフに業務を引き継ぐのか、新規に採用するのか、今後の業務配分も含めて早めに検討します。

できれば食事会や記念品など長く働いてくれたスタッフへの慰労の気持ちを示すと良いでしょう。

(2)承継者にとって継続雇用が好ましくない場合

ベテランのスタッフで給料が高く、他のスタッフとの労働条件に差があるなど、望ましいことではありませんが、勤務態度や言動が不適切なスタッフについては継続雇用が難しいと承継する先生が判断する場合があります。

そのスタッフの貢献度により特別条件が院内で納得できるならば継続雇用もありますが、経営バランスも考慮する必要があるため、改めてひとりずつ新院での労働条件を示し、継続勤務の意思を確認するのが一般的です。

その上で継続雇用が難しい場合は丁寧に理由を説明し納得していただくことが大切です。
解雇されたように受け取られると変な噂の元になりかねません。

弊社では、個人立・医療法人立どちらのケースでも、引継ぎ期間中に承継する先生とスタッフとの面談の場を持つことをおすすめしております。

◆継承する新院長によってスタッフの入れ替えは承継開業におけるリスク

クリニックを引き継いで開業する新院長にとって、承継後においても患者が継続して通院してくれるかどうかが最も気になるポイントです。

多くの患者は承継元の院長に加えて、看護師や事務職員などスタッフとの長きに亘る関係性があって通院しているケースも多く、引き継いだ側の新院長はスタッフを変更することが患者離反のリスクに繋がるかもしれないと捉えています。

◆継続雇用する際に気を付けたいことは?

クリニックの承継にあたっては、患者もスタッフも引き継げるので、スムーズな開業ができると思いがちですが、注意したほうが良い点も多々あります。

一つは、スタッフと患者に関することです。

建物や地盤は引き継いだとしても、新院長の診療方針と経営理念については、改めて最初にきちんとお伝えし、新規開業のケジメをつけたほうがうまく進みます。

これを丁寧にしておかないと、前はこうだったと新院長が合わせることが当然だと思われかねず、引継ぎ後に空中分解してしまいかねません。

現院長とそのチームの良いところを受け継ぎながら、ここは違うというところは、丁寧に説明し理解と共感を得て、新しいチームでスタートすることを意識してもらいましょう。

もう一つは教育に関することです。

引き継ぐスタッフにどのような役割を期待するのか、今後の教育方針やどんな成長を期待するのか、

これも最初に新院長より明確に示しておくことが重要です。

◆引継ぎ期間は新院長とスタッフ・患者の関係性を築くチャンス

保険医療の医院の承継では、承継した医療機関は保険医療機関の新規指定申請をします。

開設者変更と同時に診療所が継続的に開設され、患者さんが切れ目なく保険医療にかかり続ける場合、開設日に遡り、保険指定を受けることができます。
これを遡及手続きといいます。

そのための条件として、譲渡側と引き継ぎ側の医師が1~3カ月(地区によって異なる)ほど一緒に勤務することを求められます。

この引継ぎ期間内でしっかりと新院長とスタッフ・患者の関係性を築くことが、円満なクリニック承継につながります。

スタッフの継続雇用は、新院長にとって即戦力となる反面、前院長・前クリニックの雰囲気が残ることにもつながります。

急激な変更は離反を招きますが、新院長が新しいクリニックのビジョンを明確にしつつコントロールしていくことが重要であると言えるでしょう。

スタッフはクリニックを譲渡する先生にとっては、長年に亘って医院の運営を支えてくれた大事な存在であり、これからクリニックを引き継ぐ院長先生にとっては、その後の経営に大きな影響を与える大事な資産です。

承継前から、丁寧に良い関係を築いていくこと、またそれを承継元の先生もしっかりとサポートすることがクリニック承継成功の秘訣と言えます。

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弊社と提携し、クリニック継承をサポートさせていただく日本医業総研はグループ内に税理士法人や社労士法人を有するクリニック経営に特化したコンサルティングファームです。

また、これまでに550件以上のクリニックをサポートした経験から、クリニック継承において利益相反関係となる売り手と買い手の間に立ち、双方の希望を叶えるためのノウハウを有しています。

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