クリニックを従業員に引き継いでもらうことはできる?

前回は親族間でのクリニック継承の実態についてご紹介しました。

今回も引き続き、(2)従業員(勤務医)への継承について詳しく見ていきましょう。

◆一般企業のM&A(事業継承)においても従業員への継承例は少ない

従業員への継承という言葉だけを聞くと、「雇用関係にある人に引き継いでもらうのだから簡単では?」とイメージされる方も多いと思います。

また、「自分の後継者は自分で育てたい」と考えていらっしゃる先生もいるでしょう。

しかしながら、従業員への承継は簡単なように見えて難易度が高いのが実態です。なぜでしょうか?

クリニックにおいて、従業員へ継承を行う場合、以下のようなプロセスが必要となります。

1)承継者候補として、勤務医採用を行う

2)一定期間、売り手の院長と承継者候補が一緒に働く

3)承継に当たっての条件と期日を決める

(4)承継を行う

基本的にはこの4つのプロセスを踏んで進めていくわけですが、実はそれぞれのプロセスに継承を難しくする障壁が存在しています。詳しく見ていきましょう。

1)承継者候補として採用を行う

まず一般企業と違い、常勤医師を雇っているクリニック自体が稀だという点が挙げられます。そのため、多くのケースでは、承継者候補として勤務医採用を行うところから始める必要があるでしょう。

承継者候補として採用する場合は、必ずお金の話がセットになってきます。

経営を引き継いでもらうわけですから、クリニックの財務状況や院長自身の年収なども明らかにする必要があります。

ですが、こういった財務状況を承継者候補にすべて明かすのは抵抗があるでしょう。

利益額によっては、給与交渉に発展するきっかけとなる可能性も考えられます。

また、伝えた重要情報が口外されてしまうリスクもあります。

2)一定期間、院長と承継者候補の先生が一緒に働く

ここが最も難関となる部分です。

クリニック継承を仮に結婚と置き換えてみるとイメージしやすいと思いますが、時間や生活環境を長くともにするほど、相手への理解が深まりながらも、逆に些細なことで意見が食い違う機会も出てきます。

医療機関の場合、病院勤務でのキャリアが違えば、診療への知見が異なっても不思議ではありません。

最初の時点では仲良くやれていても、ある程度時間がたってからすれ違いはじめ、破談になってしまうケースがとても多いのです。

3)継承する際の条件や日取りを決める

採用の段階で、継承に関する大まかな内容に合意していても、実際に継承する数年後には、財務状況が大きく変わってしまっている場合が往々にしてあります。

合意した当時と状況が大きく変わっている場合、売る側である院長は、当然譲渡額を高くしたいと考えるでしょうし、買う側である承継者候補は、できるだけ譲渡額を抑えたいと考えるでしょう。

こういう場合、改めて現在の財務諸表をベースに譲渡条件を決定すべきですが、距離が近いかつ、利益相反関係の交渉となり、非常に難航することが容易に想像できると思います。

上記のように、各プロセスにおける障壁が背景となり、クリニックに限らず、一般の事業会社においても従業員への承継が成功するケースは多くありません。

それでも従業員への承継を希望される場合は、慎重かつ粘り強く、決意をもって進めていく必要があると言えるでしょう。

次回は、③第三者へのクリニック継承について詳しく紹介いたします。

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また、これまでに550件以上のクリニックをサポートした経験から、クリニック継承において利益相反関係となる売り手と買い手の間に立ち、双方の希望を叶えるためのノウハウを有しています。

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