クリニックの“親子間継承”に必要な手続きって!?
クリニックの継承は、「親から子に引き継ぐなら、第三者に継承するよりもスムーズにできる」とお考えになられる方も少なくないのではないでしょうか。
しかし実際には、基本的な手続きの流れにおいて親子間継承と第三者継承で大きな違いはなく、むしろ親子だからこそ必要なタスクも生じます。
今回は、「クリニックの“親子間継承”に必要な手続きって!?」と題しまして、
親子間継承に必要な手続きの大まかな流れや手順、さらには贈与や相続に関する手続きについても詳しく解説いたします。
◆クリニック継承における手続きの流れ
クリニック継承の手続きは、親子間継承・第三者継承を問わず一般的に以下のような手順で進められます。
①現院長と新院長の間で継承の契約を交わす(事業譲渡契約書)
②所管の保健所や行政機関と事前協議を行う
③廃業届および開業届の提出
④現院長および新院長の両方が保険医療機関指定の申請を行う
親子間継承の場合、①~④の基本的な流れは変わりませんが、省略できるものがあるとすれば①現院長と新院長の間で継承の契約を交わす(事業譲渡契約書)の部分です。
しかし、例え親子の間柄でも人それぞれ考え方は異なりますし、親子だからこそ承継後に摩擦が生じてしまうこともあります。
こういったトラブルを未然に防ぎ、万が一トラブルが起きた場合でも解決しやすくしておくためには、例え親子間継承であっても事業譲渡契約書は作成したほうが無難と言えるでしょう。
◆クリニック継承の基本的な手続き
次に、クリニックの親子間継承で必要となる具体的な手続きについて見ていきましょう。
まずは、親子間継承を含むすべてのクリニック継承で共通して実施する手続きから解説します。
*「廃業届」と「開業届」の提出
個人経営のクリニックを継承すると開設者や管理者が代わるため、親子間継承の場合でも廃業と開業の手続きが必要となります。
継承から1ヶ月以内に、現院長(親)は廃業届を、新院長(子)は開業届を提出します。
親子間継承ではクリニックの名称を変更しないまま引き継ぐケースも多く「廃業」というイメージは湧きにくいかもしれませんが、廃業届を提出しなければ現院長が引退した後にも個人事業税などを課税される恐れがあるので重要な手続きとなります。
添付書類は特に必要ありませんが、役所が受領した後に不備や不明点があった際には、追加で書類提出を求められることもあります。
所管の税務署および都道府県税事務所、市町村など複数の提出先があるため、漏れがないように注意が必要です。
*税金関連の届出・申請
税金関連の届出・申請は、クリニック継承に必要な手続きの中で最も煩雑なもかもしれません。
承継した新院長(子)は「個人事業主」になるので、前述した廃業届・開業届の提出以外にも、税金関連では以下のようにさまざまな手続きを行わなくてはなりません。
・青色申告の承認申請
・青色専従者の届出
・源泉所得税の納期特例の承認申請
・給与支払事業所等の開設届出
・棚卸資産の評価方法の届出
・減価償却資産の償却方法の届出
・消費税課税事業者の届出(自費診療が多い場合に届出が必要になることがあります)
売上の管理や税務申告を確実に行うためには、税金関連の手続きが必須です。
また、各種届出・申請はそれぞれに期限があり、期限を過ぎると税務上の特典を受けられない場合もあります。
必要な手続きを洗い出して早めに準備しておくことをお薦めします。
*保険医療機関指定の申請
保険医療機関指定の届出は、現院長(親)と新院長(子)の双方に必要な手続きです。
現院長(親)は「保険医療機関廃止届」を、新院長(子)は「保険医療機関指定申請書」を、それぞれ所管の社会保険事務所に提出します。
保険医療機関指定申請書の締め切りは各県によって異なりますが、保険医療機関として指定されるのは毎月1日付けが原則となっています。
つまり、タイミングを逃すと保険診療が請求できない期間が約1ヶ月も発生してしまうのです。
せっかく順調に準備を進めてきた継承が先延ばしになってしまわないように、しっかりと期限をチェックして、院長を交代する月の1日の指定に間に合うように逆算して動きましょう。
*その他の手続き
廃業と開業、税務関連の届出・申請の他にも、クリニック継承には細々とした手続きが発生します。
たとえばリース契約の医療機器などがある場合、現院長(親)から新院長(子)へ契約者の変更手続きを行う必要があります。
また、賃貸・テナントで開院している医院・クリニックの場合は、不動産関連の名義変更も必要になります。
その他にも、新院長(子)が承継を機に院内の内装やレイアウト変更、医療機器のメンテナンス・入れ替えなどを考えるケースも少なくありません。
直前になって慌てることがないように、事前に親子で今後のプランについても話し合っておいた方が継承を円滑に進められるのではないでしょうか。
◆「贈与」や「相続」に関する手続きも必要
さらに、親子間継承には贈与や相続に関する手続きも発生します。
親子間継承を複雑にする最大の理由は、医院・クリニックが親の「財産」という位置づけになることです。
土地・建物および医療機器等も対象になります(保有財産の場合)。
第三者継承であれば売買で譲渡されますが、親子間の継承は多くの場合「贈与」や「相続」といった形で行われます。
以下、それぞれの詳細及び留意点について詳しく解説していきます。
*生前の親子間継承の場合
親が生きている間にクリニックを子に継承する際は、殆どの場合、売却や貸付ではなく「贈与」で行われます。
生前に継承するメリットとしては次のような事柄が挙げられます。
・継承・承継の時期を自由に選択できる
・ゆとりをもって準備や手続きを進められる
・継承・承継後も必要に応じて親が子をサポートできる
生前贈与でクリニックを継承するときの注意点は、贈与税が発生することです。
申告するのは贈与を受けた側なので、親の税負担はありません。
子の負担を減らしたい一心で親が支払いを望むケースも見受けられますが、肩代わりするとその金額にも贈与税が課せられるため注意が必要です。
*相続による親子間継承・承継
親が亡くなってから子がクリニックを承継するときは、「相続財産として事業を受け継ぐ」という扱いになります。
家業の相続事例はクリニックの継承に限らず多数ありますが、いざというときに揉めてしまうケースも多いため、事前の話し合いや準備が重要となります。
事業用財産をスムーズに子へ引き継ぐには、まずは遺言を残すなどの対策をしておくことがポイントとなります。
ただし、承継後には相続税が発生するほか、遺留分制度によって他の法定相続人に代償交付金を支払う必要が生じるケースもあります。
そういった理由から、親は相続財産と見なされない死亡保険金などを活用して、事業用財産だけではなく現金として承継する子の手元に財産が入るように準備しておくと、より安心できるのではないでしょうか。
いずれにしても、兄弟や親族間の合意がないと承継が難航してしまう為、生前から家族でよく話し合って方針を決めておき、場合によってはすべてを文書に残しておくことをお薦めします。
◆親子間継承の手続きをスムーズに進めるためのポイント
クリニックの親子間継承は、第三者継承よりもスムーズに進むと思われがちですが、実際には贈与や相続など、第三者継承よりも煩雑な手続きが伴ったり、親子ならではの難しさが生じたりすることもあります。
以下では、親子間継承の手続きをスムーズに進めるためのポイントをご紹介します。
*子に承継の意思確認を必ず行う
ひと昔前までは、個人経営のクリニックは「家業」として子に継承するのが当たり前と思われていたかもしれません。
しかし、時代は変わり、「子が必ずしも家業を継ぐ必要はない」「子は子の人生を歩むべき」という考え方のほうが一般的になりつつあります。
たとえ子が親と同じように医師の道を歩んでいたとしても、専門分野や医師として目指すところが異なれば、「勤務医を続けたい」「自分でクリニックを開業したい」と願うことも珍しありません。
親が「子が跡を継いでくれるはずだ」と思い込んでいても、子の方は「元々継ぐ気はなかった」というケースも少なくありません。
親子間継承の第一歩はまずは意思確認を行うことから始まります。
体調不良等で急いで継承を考えなくてはならなくなった場合でも困らないように、子に承継する意思があるのかどうかを事前に必ず確認しておきましょう。
*贈与税・相続税に関する検討・対策は早めに行う
親子間継承の難しさは、クリニックが「事業用財産」として扱われるところにあります。
前述のように生前贈与では贈与税、相続では相続税が課せられるため、早めに税金に関する検討・対策を始めておくと良いでしょう。
例えば、医院の評価額が多額になる場合や、これから伸びていきそうな場合、「相続時精算課税制度」を利用して税負担を抑えるという方法があります。
相続時精算課税制度とは、2,500万円までなら贈与税を納めずに贈与を受け、亡くなったときに贈与時の価格と他の相続財産を合算して一括で相続税を納められるという制度です。
税金対策は条件等によって必要な対策も異なる為、親子だけで対応するのは難しい分野です。
税理士やクリニック継承の専門家と相談しながら、それぞれのクリニックに適した対策を進めていきましょう。
また、親子間承継で特に問題になるのは医療法人の場合です。
出資持分有りの法人では、当初1,000万円だった額面持分が承継時に億単位の評価になっているケースもざらにあります。
このような理由から、出資持分有りの医療法人の承継においては、事前に顧問税理士への相談することが不可欠であると言えるでしょう。
*資産・負債や経営状態の現状を共有しておく
個人対個人のクリニック継承において、売買で成立する第三者継承ではクリニックの負債が新院長に引き継がれることはありません。
しかし、贈与や相続で行われる親子間継承では、負債も後継者となる子が引き継ぐのが一般的です。
保証人や担保の変更等の手続きも必要となるので、「負債があると知っていたら継がなかった…」など、後になってからトラブルとなる可能性も大いにあるため、クリニックの資産とあわせて未払い金や借入金等の負債についても、承継する子に情報共有しておかなければなりません。
また、厳しい経営状況を知らずに承継し、子が後悔するケースも少なくないため、資産・負債の実態と同じように経営状況についても共有しておきましょう。
*経営方針や診療理念について話し合う
第三者継承では、経営理念や診療方針について細やかな引き継ぎを行います。
これは、後継者の先生が承継後に円滑な運営を実現するためなのは勿論ですが、急激な変化により患者さんが離散してしまうのを防ぐためでもあります。
しかし親子間継承では、親の意向が強すぎると関係がこじれやすく、継承を機に思い切って経営理念や診療方針を切り替えた方がうまくいきやすい傾向があります。
特に親子が2診体制で運営する引き継ぎ期間を設けるパターンでは、指示系統が2つになることで、スタッフは長年の関係性から元院長(親)を優先しようとします。
そうすると本来尊重されるべき新院長(子)は居心地が悪く感じてしまい、せっかく承継したのに子が出て行ってしまったというケースもあるのです。
親子間継承では、あくまで親は一歩引いて子を尊重し、アドバイスを求められたときに応じる程度の関わり方が理想的です。
根幹となる理念や方針等については、親子間でよく話し合い、経営計画を策定しておくと安心かもしれません。
◆個別相談はご活用されていますか?
いかがでしたでしょうか。
親子間継承を行う場合も、第三者継承の場合と同様に様々な手続きが発生します。
また、例え親子間であっても、承継後のトラブルを未然に防ぎ、万が一トラブルが起きた場合でも解決しやすくしておくためには、事業譲渡契約書の作成などを行っておくことが重要となります。
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