閉院前に知っておきたい紙カルテの保管について
昨今、少子高齢化が進み「後継者問題」は社会全体の課題となっています。
特に「家業」としてビジネスを営んできた中小企業などは、後継者不在のために廃業を余儀なくされるケースが多く、医療業界も例外ではありません。
開業医には閉院後にもさまざまな義務が発生します。
レントゲンフィルムやデータの保管、エックス線装置等の測定記録など多岐にわたりますが、中でも閉院後にカルテの扱いをどうすればよいか分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は「閉院前に知っておきたい紙カルテの保管」と題しまして、カルテの保管義務や保管方法等について詳しく解説致します。
■閉院した場合、カルテの保管は必要?
クリニックをご親族や親族外の医師に引き継がず閉院することになった際には、紙カルテ・電子カルテいずれの場合にも5年間の保管が義務付けられています(医師法24条)。
また、レントゲンフィルムやデータに関しては、撮影した疾患に関する診療行為が終了してから3年間の保管が必要です(保険医療機関及び保険医療機関療養担当者規則)。
その他、エックス線装置等の測定結果記録、放射線障害が発生する恐れのある場所の測定結果記録なども5年間の保管義務があります。
厚生労働省の調査データによると、令和2年の一般診療所での電子カルテの普及率は約50%と報告されており、これは全国の約半分のクリニックが未だに紙カルテを使用しておられることを示しています。
さらにこの数字は、電子カルテの導入率がほぼ100%に近い新規開業のクリニックも含まれており、古くから診療を行っておられるクリニックの多くは、今も紙カルテでの診療を続けておられることが分かります。
さらに、前述にもあるようにカルテの保管期間として義務付けられているのは5年ですが、医療事故による損害賠償請求の可能性も考慮すると、20年間の保管が望ましいとされています。
これは、損害賠償請求消滅時効期間が「被害者が医療機関側の過失であることを知ったときから5年間」「医療行為をおこなった時点から20年間」とされていることが理由です。
クリニックは、閉院すれば終わりというものではなく、閉院してからも院長先生には様々な義務が課せられており、これらにしっかりと対応を行いながら閉院を進めていくことが後のトラブルを防ぐためにも大変重要となります。
■紙カルテの保管方法について
では、カルテの保管には一体どのような方法があるのでしょうか?
クリニックにある紙カルテの量は、その規模や患者数によっても異なりますが、基本的には患者様が増えれば増えるほど多くなり、そのうち受付周りには収まらなくなってくるものです。
以下、一般的な3つの保管方法についてご紹介させていただきます。
①院内の空きスペースに保管
最も一般的な保管方法は、院内の空きスペースへの保管でしょう。
しかし、患者様が増えるほどに紙カルテの量も増えていくことを考えると、それなりのスペースを用意する必要があります。
また、途中で紙カルテから電子カルテに切り替えた場合も、5年間は紙カルテを保存しておく必要があるため注意が必要です。
②外部の倉庫などに保管
増えすぎたカルテを外部の専門業者に委託して保管しておられるクリニックも多いようです。
紙カルテに書かれている情報は個人情報となるので、専門業者であれば24時間体制のセキュリティを整えているため安心です。
しかし、もちろん保管には費用がかかります。
だいたいの相場は段ボール1箱を1年間保管するのに約5,000円程度と考えておくのがよいでしょう。
③データを電子化して保管
紙カルテをデータ化することで保管スペースを確保する必要がなくなります。
ただし紙カルテをPDFデータにして保管する場合は、電子署名とタイムスタンプを付与しなければならないと、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」により定められています。
紙カルテをスキャンしただけのPDFデータでは原本とは認めらないため注意が必要です。
■クリニックの継承・閉院に関するご相談を承っております
いかがでしたでしょうか。
クリニックの閉院には、テナントの原状回復や患者様の他院への紹介、スタッフへの対応、行政手続きなどの負担に加え、医療機器の処分や電子カルテの保管といった様々なタスクが発生します。
一方で後継者不在でもクリニックを引き継ぐことができる「第三者継承」では、必然的に患者様の個人情報が入った「カルテ」も引き継ぎぐことになり、継承元から継承先に引き継がれるカルテ情報は、個人情報保護法違反には該当せず、引き継ぎと同時にカルテの管理責任も後継者の方に移行されます。
弊社では、引退(閉院準備、第三者継承、親子間継承など)に関する無料の個別相談を承っております。
将来の引退に関するご不安や気掛かりがございましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。