クリニック第三者継承 成約事例インタビュー『吉川整形外科』後編
出会いの妙から生まれた理想的な医業継承
金田庸一先生が長きにわたり地域医療を支えてきた「金田整形外科」は、2023年4月、中川厚先生に承継され「吉川整形外科」(院長・関雅之先生)として新たにスタートを切った。後編では両先生に、今回の第三者継承についての所感を伺った。
前院長から学んだ整形外科医療の原点
−−−引継ぎ期間中に、金田先生から得られた学びや気づきといった点はいかがですか。
(中川先生)引継ぎというより、ご指導をいただいた期間でした。地域の患者さんたちがどれだけ金田先生を頼りにされているのかを目の当たりにしましたし、かつて金田先生を指導された井上教授直伝の触診技術は我々とは格段に違います。MRIなどのデジタルで合成された画像診断とは別世界の医療なのです。知らず知らずのうちに、私たちの世代は検査の手を抜いてしまっていたのかもしれません。その気づきから整形外科医としての原点に戻れるような気がします。
(金田先生)それしかできないんです。昭和の整形外科医ですから(笑)。
(中川先生)いえ、現在のデジタル対応は間違ってはいないと思うのですが、聞いて、触って、叩くという基本から始めないと、大きな疾患を見逃してしまうこともあり得るのではないかと思いますね。
−−−診断の精度が大事なのは当然ですが、先生に直接触れていただくことによる、患者さんの安心感も大きいのではないですか。
(金田先生)それはそうです。他の整形外科で、身体にまったく触れず、ろくに目も合わさずに画像だけを見て、「大丈夫」と言われて終わったという患者さんがまれにいらっしゃいました。昔そんなことをしたら、「キチンと診ろ!」と教授や指導医からコツンとやられたものです。それが当たり前だと思ってやってきたわけですが、違う見方をされる先生が増えてきたのでしょうね。
−−−事業を承継されて、旧金田整形外科の何をそのまま踏襲し、どこに吉川整形外科のオリジナリティを出していこうとお考えですか
(中川先生)グローバルビューはまだ描ききれていませんが、金田先生が築いてこられた歴史と信用、地域に寄り添うという基本姿勢は守って行きます。まだ開業医としての経験も浅いので不十分な部分がありますが、金田整形外科に近づけるよう組織的に頑張っていくことだと思っています。
患者さんを離脱させない前院長の協力
−−−事業承継後の初月の数字もまずまずだったという報告を受けております。経営の手ごたえのような感触は感じられますか。
(中川先生)未知の部分が多くありますが、数字が出せたのは患者さんに対して「大丈夫だから」といっていただいた金田先生の声掛けのおかげだと思っています。そこは大家の寛容さというか……。
(金田先生)身体はすっかり退化しています(笑)。でも、私から見てもスタッフの皆さんが本当に頑張っていらっしゃると思っていますよ。
(中川先生)金田先生に頑張りを認めていただけることが私たちの励みになるし、そのおかげで一定の成績が維持されています。
−−−承継に伴い、法人としての事業規模が大きくなりました。整形外科の運営では多職種連携が大切になりますが、人的なマネジメントをどのようにお考えですか。
(中川先生)突き詰めて考えれば、患者さんに信頼していただけるかが医療機関にとって一番大事なことだと思っています。金田先生が何十年とやってこられた名簿記録を開くと、スタッフの離職が本当に少ないんです。承継に伴い新たなスタッフを採用したほか、本院からもシフトで来てもらっていますが、10年単位で勤務されてきた既存スタッフから、患者さんの個別性やクリニックに期待するニーズなどを教えていただいています。私のマネジメント以前に、そうした地域特有の情報が運営上最重要で、そこを正しく解釈して溶け込むことだと思っています。
(金田先生)いやぁ、リフレッシュしたくても辞めてくれないんだよ。ズルズルとしているうちに高齢者集団になってしまいました(笑)。
−−−金田先生。スタッフ定着のための秘訣を教えてください。
(金田先生)納涼会、忘年会、新年会、その他諸々ですが、月1回くらいばか騒ぎするコミュケーションは図ってきました。給与水準が特に高かったわけでもなく、秘訣といってもその程度なのですが、なにか普段と顔つきや対応が違っていると感じたときには放置せず、「どうしたの、何かあったの?」と声を掛けて話を聞き出し、早めに解決するようにしてきました。でもそれは、院長としては当たり前のこととしてやってきただけのことです。
−−−スタッフとのコミュニケーションという部分では、中川先生はどのようにお考えですか。
(中川先生)全体の動きを俯瞰しつつ、診察室から出て、部門ごとにちょこちょこと顔を出し、スタッフの動きを見ながら「どうだ」と話しかけるようにしています。リハビリでの患者さんへの声掛けや、レントゲンへの誘導など、患者さんにとっての良い行いへの評価も、言葉で直接伝えるようにしています。